2021年末に、令和3年度 社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会 報告書(案)が示されましたね。いろんな報告書がでているので、全部が見切れるわけではないですけど。
(その後、2月10日に社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会 報告書がでています。)
ここでは、児童福祉法の改正が予定されている大きな項目の一つである新たに創設されるソーシャルワーカーの資格について、医療や介護・障害のソーシャルワーカーと比較しながら思うことを書いています。
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーについて
児童福祉法の改正が予定されている大きな項目の一つに、ソーシャルワーカーの新たな資格が創設されます。
資格については、反対か賛成か本当にいろんな論議が繰り返されていましたね!
議事録を読むと、これまでの社会福祉士と精神保健福祉士の創設の歴史が垣間見れます。
各職能団体や大学の先生方のいろんな考えがありましたが、私の印象では、会議の中で総じて、
「子どものために有能なソーシャルワーカーを養成する必要がある。」
この一点だけは共通していて、とても、興味深く読むことができました。
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーの創設 案①と案②
第41回の資料には、案①と②が示されていました。

案①においては、①既存の有資格のルート②現任者のルート③福祉系大学等ルートの3つが示されています。

案②は、③福祉系大学等ルートが除かれた①既存の有資格者のルートと②現任者のルートのみの提示です。
報告書の内容を読み進めると、賛成の意見と反対の意見が併記されていました。
最終的には、どうやらこの案②を採用しようという流れのようですね。
当専門委員会における以上の議論の経過を俯瞰して見ると、全体としては、案①を支持する意見が多数あった。同時に案①に対して、一部には強く反対する意見もあった。また、案②を支持する意見も一定程度あり、これに反対する意見もあったが、案①に対する意見ほど強く反対しているという状況でもなかった。
案②については、福祉系大学等のルートはないものの、案①と同様に認定資格として導入することになる。
このような状況を踏まえた上で、ぎりぎりの着地点を見出すとすれば、厚生労働省が案②の方向(注)で進めていくことも一つの選択肢ではないかと考えられる。厚生労働省においては、当専門委員会で様々な意見があったことを十分考慮しつつ、適切な制度設計を検討すべきである。
上記の内容からも、②の現任者は当面の間の運用ですから、①の社会福祉士と精神保健福祉士の有資格者ルートが本筋として残るようです。
子ども家庭福祉指定研修の内容
研修カリキュラムは、100時間程度確保するものとしてはどうかと提案されています。
また、児童相談所や市町村の子ども家庭総合支援拠点等の実務者への配慮として、業務と両立しながら資格を取得できるように、オンライン授業やeラーニング、レポートなどが想定されています。
指定研修の内容
- 学校とソーシャルワーク
- 教育の基礎的理解に関する科目
- 母子保健と小児医療の基礎
- 社会的養護の現状と課題
- 子どもの貧困・格差
- 家族理解と支援
- 保護者理解と支援
- 子どもの発達
- 子ども虐待予防
- 地域共生社会(虐待を発生させない地域づくり)
- 子どもの権利擁護
- 非行対応
- 子ども虐待対応
- 行政権限の行使と司法手続き
- 関係機関(市区町村を含む)との連携・協働と在宅支援
- 社会的養護における自立支援
- 児童相談所における方針決定の過程
- 子どもの面接・家族面接に関する技術
- 子ども家庭支援のためのケースマネジメント
社会福祉士の新カリキュラム
令和3年度より社会福祉士のカリキュラムが見直されています。
その中の児童に関わる児童・家庭福祉(30コマ)教育に含むべき事項も掲載しておきます。



精神保健福祉士の養成課程には、上記のような児童福祉に関するカリキュラムはありません。このあたりの整合性についても委員会では触れらていましたが、今後どうなるのか注目したい点になります。
いずれにしても、今回の児童分野のソーシャルワーカー資格の建てつけの結論をみれば、「社会福祉士」資格取得の必要性は高まったと言えますね。社会福祉士取得については以下を参考くださいね。
児童分野のソーシャルワークの必要性について
資格となると国家資格が良い、既存資格の社会福祉士に上乗せなど論議はいろいろありますが、議事録内でのこの結論が大変良いと思ったので、以下に抜粋したいと思います。
中略
このように制度設計案に対しては、多岐に渡る意見があったところである。
しかしながら、子どもの尊い命や暮らし、またその権利を、早急に、1人でも多く守るため、児童福祉行政の現場に十分な専門性を身につけたソーシャルワーク能力のある人材を輩出し、複雑で複合的なそれぞれの家庭の状況に対応する人材の資質向上を図るべきことは、論を俟たない。
引用:令和3年度 社会保障審議会児童部会社会的養育専門委員会 報告書(案)
厚生労働省の審議会で、「児童福祉行政の現場に十分な専門性を身につけたソーシャルワーク能力のある人材が必要なんだ」という結論が出ているわけですね。これは、素晴らしいことです。
一人の現任のソーシャルワーカーとしては、本当にうれしくなる議事内容でした。
子ども分野以外のソーシャルワーカーについて
ところで、他分野のソーシャルワーカー論議はどうなんでしょうか?
私は、医療、高齢分野でソーシャルワーカーとしての経験が長いのですが、この医療・高齢分野の審議会で、これだけ「ソーシャルワーカー」についての必要性を論議している審議会は見当たりません。
高齢領域においては、地域包括支援センターに社会福祉士が必置になっているからでしょうか?
実務を行っている私としては、地域包括支援センターでの実践は、まさにソーシャルワークです。
地域包括支援センターでのソーシャルワーク実践についてはこの記事も参考にしてくださいね。
でも、もう少し、介護保険制度を話し合う介護保険部会や、介護報酬の論議する場である介護給付費分科会でソーシャルワーカーの必要性について話があってもいいと思っています。
障害分野においては、障害者総合支援法改正法施行後3年の見直しについて、中間報告書(令和3年12月16日)出ていますが、その中の相談支援の項目においてもソーシャルワーカーについての文言はわずか1か所です。
相談支援専門員の養成には、ケアマネジメントに関する必要性は論じられてはいます。
この中間報告書には、社会福祉士と精神保健福祉士の文言は同様に1か所でていました。そのことについては、以下を参照してくださいね。
児童分野におけるソーシャルワーカーへの期待
そういう意味で、変な言い方ですけど、一人のソーシャルワーカーとして、素直に「とてもうらやましい」という気持ちでした。
昨今、ソーシャルワーカーの分野はとても幅が広いわけです(私が養成校で学んだときは、老人・障害・児童が中心だったです・・・)。
地域共生社会におけるソーシャルワークへの期待
今の国の論議を見ていると、地域共生社会という考え方が出てきたことで、ソーシャルワーカーにさらなる活躍が期待されています。
「地域共生社会の実現に向けた地域福祉の推進」を行う上で、重層的支援体制整備事業が令和3年度から創設されました。
この重層的支援体制整備とソーシャルワークの機能については、とても密接ですので、以下のサイトを参考にしてくださいね。
これまでのさまざまな分野のソーシャルワークの実践が、ここにきて花開いているという印象を持っています。
例えば、
- 医療ソーシャルワーカーの地域活動を含めた多様な実践
- 生活困窮自立支援のケースワーカーの支援会議の積み上げ
- 地域包括支援センターの専門職の地域ケア会議の実績
- 社会福祉協議会等のコミュニティソーシャルワーカーの個別支援と地域支援の一体的実施
などなどが積み重なって、この社会福祉法に位置付けられた「重層的支援体制整備事業」と実っています。
ソーシャルワークの機能を果たす者とは
この地域共生社会の実現に向けた地域福祉の推進において「ソーシャルワークの機能を果たす者」への期待が明記されています。
ですが、資格という側面で見れば、それが社会福祉士や精神保健福祉士という有資格者への限定的な期待ではありません。
付帯決議で社会福祉士や精神保健福祉士の活用を行うようになりましたが・・・。
児童分野において「子ども家庭福祉ソーシャルワーカー」が創設されることは、児童分野のソーシャルワークの機能を果たす者として、国の捉え方も変わっていく可能性が十分にあります。
このように、現時点で障害や高齢、地域などを横断的に見れば、児童福祉におけるソーシャルワーカーへの期待がとても大きいのだと思えてなりません。
・・・個人的には、子ども家庭福祉ソーシャルワーカー認定資格取得に向けて、また時間とお金がかかるなあという気でいるんですけどね。
子ども家庭福祉ソーシャルワーカーの研修に関する検討会については、以下の記事で触れています。
子ども家庭福祉の認定資格の取得に係る研修等に関する検討会ワーキンググループについては、以下の記事で触れています。
子ども家庭福祉の認定資格の取得に係る研修等に関する検討会とりまとめ(案)が公表されましたね。
当ブログでは、これまで子ども家庭福祉ソーシャルワーカーについて随時取り上げてきましたが、ここでは「とりまとめ」の内容について現任者として気になったところを記事にしています。
最後まで、読んでいただいて、ありがとうございました。
めざし