これからのソーシャルワーカーに必要なネゴシエーションとは

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必要な能力
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この記事のまとめ
ソーシャルワーカー(社会福祉士・精神保健福祉士)に必要な能力として挙げられているネゴシエーションの技術について、一現任者として、ここでは考えていきたいと思います。

記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。

ネゴシエーションの話の前に

ネゴシエーション(negotiation)の日本語訳は「交渉」になります。交渉と聞くと、「交渉人」という1998年に公開された映画を私は思い出しました。

サミュエル・L・ジャクソンと、ケビン・スペイシーが演じる2人の交渉人が織りなす、緊迫したシーンが続く、サスペンス映画。とても個人的には面白くって、好きな映画です。

日本では、『交渉人 真下正義』でしょうか。踊る大捜査線のスピンオフ作品でした。

こういった映画の影響があるのか、私自身「交渉」というと、なんだか非常に心理戦で、いかに手玉に取って相手を崩していくか、こちらの条件を相手にのませていくか・・・。といった印象があります。皆さんはいかがでしょうか?

でも、ソーシャルワーカーにとって、必要なネゴシエーションとはこういった意味合いになるのでしょうか。どういった「技術」なのでしょうか。

基本的なことから、現任者の現場の事例を交えて、ここでは見ていければと思います。

ネゴシエーションとは

交渉学としては、ハーバード大学で開発された「ハーバード流交渉術」があります。

交渉の種類は、以下の2つに大きく分けられています。

種類内容
分配型交渉限られた大きさの利益を当事者間で分配する
統合型交渉利益の最大化を目指して両者が協力しあう
出典:ソーシャルワークの理論と方法より筆者作成

ソーシャルワーカーにとっては、分配を決めることがその役割ではなく、対話によって相互の合意を目指して、双方が満足する後者の「統合型交渉」が必要になります。

地域福祉でのネゴシエーションの実際

地域福祉でのネゴシエーションはどのような展開なのでしょうか?ここからは、一現任者の具体例を持って、触れていきたいと思います。

生活支援体制整備事業のネゴシエーションの展開

私は、包括での経験の中で、もっとも難渋したのは総合事業の開始に伴って始まった「生活支援体制整備事業」の展開でした。

生活支援体制整備事業は、高齢者を支える地域の支え合いの体制づくりを推進していくための事業になります。

簡単に説明すると、従前からの住民主体の活動を後押しすることや、新たな高齢者にとって必要な通いの場を住民主体で創っていくなどを目指していきます。

その事業展開の過程で、住民が「やらせられている」とはならないように、住民が主体的に取り組めるよう交渉していくことに大変苦心しました。

この事業は、あくまで行政側から発信された事業です。

ですので高齢者に関わる「生活支援体制整備事業」を、住民に広く理解してもらい一緒に取り組んでもらう必要がありました。

一方で、住民側の立場としては、これまで相当に、主体的に、高齢福祉に関して取り組みを行ってきているし、これ以上何を取り組めというのか。といった思いを強く持たれていました。

総合事業開始時は、こういった双方の立場の違い考え方の相違感情面の衝突(コンフリクト)が各所で起こっていました。

そういった状況で、交渉間同士の利益の一致を模索して、共通の目標を見つけて合意を形成する必要があったわけです。

これはまさにソーシャルワーカーが行う「ネゴシエーション」が必要な状況であった。といって良いでしょう。

ネゴシエーションのプロセス

ネゴシエーションは一連のプロセスであると言われています。以下に簡単な図を掲載します。

ソーシャルワークの理論と方法より抜粋・編集

このプロセスになぞらえて、ここでは地域福祉におけるネゴシエーションのプロセスを一覧にしてまとめてみました。

他のソーシャルワークに関するおすすめの書籍は当サイトでも紹介していますので、参考にしてくださいね。

生活支援体制整備事業のネゴシエーションプロセス

ネゴシエーション
プロセス
具体的内容
交渉の前
知識・技術・経験が必要
総合事業に関わる生活支援体制整備事業についての説明
地域の高齢化率など裏付けとなるデータの提示
人材不足など、住民主体の互助力の必要性
(地域アセスメントに関わる事項)
コミュニティのキーパーソン(人柄・思考や傾向)
コミュニティの成り立ち、組織の意思決定方法
コミュニティの風土・歴史・文化
地域との話し合いの場(交渉)には、
管理者が常に同席しネゴシエーションの経験を補完
準備
交渉への準備
計画立案
どこまで合意ができるかの落としどころの決定。
事業所の役割としての妥協の範囲
交渉の場を想定した交渉前の「事前デモ」の実施など
交渉(七つの要素)
①関係

②コミュニケーション
③関心利益

④オプション

⑤正当性
⑥BANTA
⑦コミットメント

①コミュニティの方々が何を考えているか。
私たちとの信頼関係が構築されているか
②対人援助職としてのコミュニケーションスキルは備わっているか
③総合事業を理解してほしいという開示とともに、
すでにある地域の様々な主体的な取り組みをちゃんと理解しているか
④行政からの押しつけになっていないか。
双方の利益を考えられているか。
⑤公正を心掛けているか
⑥交渉の代替案が考えられているか。
⑦双方が実行できる現実的な約束
合意/決裂
筆者作成

まとめ

生活支援体制整備事業が始まってから、ネゴシエーションプロセスにおいての合意や決裂を繰り返していきました。

時には、地域から強い反応(反発にも似た・・・)もありました。特に関心利益やオプションといった項目にあたる「押しつけ」に注意しながら、地域の主体性を後押しできる種を蒔き、育てる(見守る)時間が必ず必要であったという実感があります。

地域の役員との話し合いを行う機会は格段に増えることになって、2年ほど経過し過渡期は過ぎたような印象を持っています。

現在では、住民主体でさまざま介護予防に資する取り組みを実施するに至ることができています。ですが、地域課題を共有して、「地域の支え合いの体制づくり」をどのように創っていくのかは道半ばな状況です。

今後も、ネゴシエーションを有効に活用しながら、対話によって相互の合意を目指し、双方が取り組みについて納得(満足)しながら、支え合いの体制づくりを少しでも前に進めていけるように地域展開を行っていきたいものです。

めざし

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