「意思決定支援」について~5つのガイドラインまとめと少しの考察~

スポンサーリンク
コラム
スポンサーリンク

記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。

はじめに

本題の前に

みなさんこんにちは。

今、このサイトをご覧になっていただいている方は、例えば学生で表題の意思決定支援について調べてみようと思われている看護学生、または社会福祉士の養成校の方でしょうか?それとも、日々、困難事例に頭を抱えて、どうやったら良い意思決定が援助できるのだろうと悩める現任者でしょうか?

意思決定支援については、いろんなガイドラインがでていますので、どれを見たらよいのか私はわかりませんでした。ですので、ここでは5つのガイドラインのまとめをしたいと思います。

私も、日々悩める現任者ですので、みなさんと一緒にできるだけ分かりやすく意思決定について考えていきたいと思います。

意思決定を考えていく上で、大切と思うことは、「権利擁護」です。

ですが、この権利擁護という言葉を聞くとは少し、難しい気がしませんか?なにか特別な気がして、例えば、弁護士とか司法書士などの法律家が行うイメージでしょうか?それとも、権利擁護機能をその業務に中心にしている例えば地域包括支援センターが行うものでしょうか?

まず、大切な前提として(ケアマネジャー向けの法定外研修などでも繰り返しお伝えするのですが)みなさんが従事されている(または学ばれている)ケースワークやケアマネジメントも立派な権利擁護機能になるということを触れておきたいと思います。

どのような状況、身体・心理・社会的な状況であったとしても、私たちはその人が望む生活を実現させようとして、関わります。
権利擁護機能と聞いたり、書いてしまうとどうしても難しく映ってしまいますが、ケースワークやケアマネジメントによる利用者・家族への関り自体が、この機能を持ち合わせているし、担っているということです。

ということをまず、再度確認したいなあと思います。
ですので例えば、ケアマネジャーの仕事は権利擁護に直結するすばらしいお仕事なんだということですね!(大きな声で)

権利を理解してもらう事って難しいことがある

そして、日々の実践ではどうでしょうか?
疾患や障害や環境のために、当事者が本来有する権利を理解してもらえない場合が大変多くあります。たとえば、必要なのにサービスを拒否しているとか。家がドロドロで全く清潔が保持できていないとか。
そういった生活の課題を抱えている当事者や家族に私たちはすでに出会っていますし、これからもますます出会っていきます
この出会いに「責任」を持つ必要があるわけなんですが・・・、どうすれば、権利を理解してもらうことができるのか、意思決定支援の難しさを日々感じています。

支援者はたくさんの説明を当事者やその家族に行っています。利用者家族の理解が得られて、多様なサービスが結びつき、当事者の権利も擁護されていきます。

でも、例えば理解が得られにくい家族はどうでしょうか?そういった場合たちまち説明や合意形成は難しくなってしまいます
できればいいんだけど、できないから意思決定支援がうまく進まないのであって、現任者の私たちは困っているわけです。

そこで、私たちの日々の実践に少しでも参考になるよう、ここでは意思決定支援に関するガイドラインまとめをしていきたいと思います。

意思決定支援のガイドラインについて

意思決定支援についてはいろんなガイドラインがでています。包括向けの研修の中に、とても良くまとまっている資料がありましたので、以下に抜粋します。

厚生労働省【地域づくり加速化事業】全国研修から抜粋

この研修は、厚生労働省が行った全国研修(オンデマンド研修 令和5年2月から配信 現在は視聴できないようです。)になります。意思決定支援のガイドラインは5つ紹介されています。それを一つずつ見ていきましょう。

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドライン

まずは、人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインです。これをまず挙げたのは、ページ数が最も少なく7ページしかないからです・・・。ガイドラインを研修で紹介する際には、忙しい現任者や、いろんなことを学ぶ学生にそんなに負担がないことを付け加えています。結構それは、重要だと思うので。

基本的な考え方

まずは、とても大切になる基本的な考え方を見ていきましょう。全部大事ですが、特に私が大切と思ったところを太文字にしています。

基本的な考え方
1)このガイドラインは、人生の最終段階を迎えた本人・家族等と医師をはじめとする医療・介護従事者が、最善の医療・ケアを作り上げるプロセスを示すガイドラインです。
2)そのためには担当の医師ばかりでなく、看護師やソーシャルワーカー、介護支援専門員等の介護従事者などの、医療・ケアチームで本人・家族等を支える体制を作ることが必要です。このことはいうまでもありませんが、特に人生の最終段階における医療・ケアにおいて重要なことです。
3)人生の最終段階における医療・ケアにおいては、できる限り早期から肉体的な苦痛等を緩和するためのケアが行われることが重要です。緩和が十分に行われた上で、医療・ケア行為の開始不開始、医療・ケアの内容の変更、医療・ケア行為の中止等については、最も重要な本人の意思を確認する必要があります。確認にあたっては、適切な情報に基づく本人による意思決定 (インフォームド・コンセント)が大切です。
4)人生の最終段階における医療・ケアの提供にあたって、医療・ケアチームは、本人の意思を尊重するため、本人のこれまでの人生観価値観、どのような生き方望むかを含め、できる限り把握することが必要です。また、本人の意思は変化しうるものであることや、本人が自らの意思を伝えられない状態になる可能性があることから、本人が家族等の信頼できる者を含めて話し合いが繰り返し行われることが重要です。
5)本人の意思が明確でない場合には、家族等の役割がいっそう重要になります。特に、本人が自らの意思を伝えられない状態になった場合に備えて、特定の家族等を自らの意思を推定する者として前もって定めている場合は、その者から十分な情報を得たうえで、本人が何を望むか、本人にとって何が最善かを、医療・ケアチームとの間で話し合う必要があります。
6)本人、家族等、医療・ケアチームが合意に至るなら、それはその本人にとって最もよい人生の最終段階における医療・ケアだと考えられます。医療・ケアチームは、合意に基づく医療・ケアを実施しつつも、合意の根拠となった事実や状態の変化に応じて、本人の意思が変化しうるものであることを踏まえて、柔軟な姿勢で人生の最終段階における医療・ケアを継続すべきです。
7)本人、家族等、医療・ケアチームの間で、話し合いを繰り返し行った場合においても、合意に至らない場合には、複数の専門家からなる話し合いの場を設置し、その助言により医療・ケアのあり方を見直し、合意形成に努めることが必要です。
8)このプロセスにおいて、話し合った内容は、その都度、文書にまとめておくことが必要です。

ポイントを抜粋すると、

チームで行う。肉体的苦痛を緩和した上で、本人の意思を確認する。本人の人生観を大切にすること。意思は変化するもので、柔軟な姿勢で医療・ケアを継続する。話し合いを繰り返し合意形成に努める。

改訂が行われていますが、特に本人が家族等や医療・ケアチームと事前に繰り返し話し合うプロセスが盛り込まれていることが理解できます。

大項目まとめ

そして、大項目として

  1. 人生の最終段階における医療・ケアの在り方
  2. 人生の最終段階における医療・ケアの方針の決定手続

2つに分けられています。そしてそれぞれのポイントとして意思の汲み取りに関することや、意思決定支援で考えられる懸念など、従事する者が具体的にイメージしやすいように注釈が17個設けられています。

医療・介護の現場における普及を図ることを目的にしているため、病院・在宅に関わらず幅広い従事者が参考にできるガイドラインとなっています。

認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドライン

次は、認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインです。ページ数が、本文のみで10ページです。

趣旨について

まずは、ガイドラインの趣旨を抜粋します。

趣旨:本ガイドラインは、認知症の人を支える周囲の人において行われる意思決定支援の基本的考え方(理念)や姿勢、方法、配慮すべき事柄等を整理して示し、これにより、認知症の人が、自らの意思に基づいた日常生活・社会生活を送れることを目指すものである。

考え方・姿勢・方法・配慮すべき事項を整理とありますが、本文中には、考え方においても、臨床のヒントになることが大変多く掲載されていますし、また、繰り返して配慮という具体的な方法もでてきます。

誰によるガイドラインか

誰によるガイドラインか:ケアを提供する専門職種や行政職員の例として、医師、歯科医師、薬剤師、看護師、保健師、ケアマネジャー、認知症地域支援推進員、相談支援専門員、生活保護ケースワーカー、社会福祉士、精神保健福祉士、民生委員や医療機関、訪問看護ステーション、包括支援センター、認知症初期集中支援チーム、認知症疾患医療センター、介護サービス事業所、障害福祉サービス事業所、市町村などの職員などが考えられる。

特定の職種や特定の場面に限定されるものではなく、中でも民生委員という地域の活動者も含まれていて、本人をよく知った近隣の住民も含まれています。専門職だけでなく認知症に関わる人みなさんということが本ガイドラインの大きな特徴になりますね。

意思決定能力について

意思決定能力についてとても大切な記載がありますので、以下に抜粋します。

本人の意思決定能力についての注意事項を掲げる。
(1)本人の意思決定能力は行為内容により相対的に判断される。日常生活・社会生活の意思決定の場面は多岐にわたり、選択の結果が軽微なものから、本人にとって見過ごすことのできない重大な影響が生ずるものまである。
(2)意思決定能力は、あるかないかという二者択一的ではなく(連続量)、段階的漸次的に低減喪失されていく
(3)意思決定能力は、認知症の状態だけではなく、社会心理的・環境的・医学身体的・精神的・神経学的状態によって変化するので、より認知症の人が決めることができるように、残存能力への配慮が必要となる。
なお、本人の意思決定能力は本人の個別能力だけではなく、意思決定支援者の支援力によって変化することに注意すべきである。

この3つ(プラス1)の項目は、とてもとても大切なので、考え方として是非踏まえおきたいものですね。

意思形成・意思表明・意思実現について

そして、支援の中核として、3つの支援がとても大切ですね。

  • 本人が意思を形成することの支援を意思形成支援
  • 本人が意思を表明することの支援を意思表明支援
  • 本人が意思を実現するための支援を意思実現支援

形成・表明・実現それぞの支援に必要な人的・物的環境の整備として、ポイントが挙げられています。例えば、意思決定支援者のあるべき態度についてや、意思決定支援者との信頼関係への配慮、また、意思決定支援と環境についてです。それらが細かく解説されています。

高齢者分野に関わる方は必見というべきガイドラインと言えます。

意思決定支援のプロセス ガイドラインから抜粋

障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドライン

障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインを見てみましょう。

趣旨について

趣旨:ガイドラインは、事業者がサービス等利用計画や個別支援計画を作成してサービスを提供する際の障害者の意思決定支援についての考え方を整理し、相談支援や、施設入所支援等の障害福祉サービス(以下「サービス」という。)の現場において意思決定支援がより具体的に行われるための基本的考え方姿勢方法配慮されるべき事項等を整理し、事業者がサービスを提供する際に必要とされる意思決定支援の枠組みを示し、もって障害者の意思を尊重した質の高いサービスの提供に資することを目的とするものである。

上記の記載から、専門職に向けた色合いが強いことが分かりますね。ただ、必要に応じて地域で関わる人たちでも参加してください。と、ガイドラインを活用することを紹介しています。

意思決定支援の流れ

意思決定支援の流れについては、フローが掲載されていますので、それをみましょう。

意思決定支援の枠組みは、意思決定支援責任者の配置、意思決定支援会議の開催、意思決定の結果を反映したサービス等利用計画・個別支援計画(意思決定支援計画)の作成とサービスの提供、モニタリングと評価・見直しの5つの要素から構成される。

このように、ケアマネジメントプロセスに紐づけて実施する枠組みとなっていることがわかりますね。

障害者が自らの意思で決定が難しい時、計画作成に関わる相談支援専門員やサービス提供の事業者においても必見でしょう。

身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン

身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドラインを見ていきましょう。

趣旨について

多くの医療機関が求めている「身元保証・身元引受等」の機能や役割について整理を行い、既存の制度やサービスの利用など、身元保証人・身元引受人等」がいないことを前提とした医療機関の対応方法を示すことによって、身寄りがいない場合にも医療機関や医療関係者が患者に必要な医療を提供することができる

身寄りがない高齢者も増えていますので、入院時などに保証人を立てたい医療機関としては、身元保証人や身元引受人がないことが大変困っている現状があります。

包括で担当している利用者が入院した時、保証人の欄に「めざしの名前を書きました」と後から言われることもしばしばあります・・・。それから、一部の民生委員が引受人になったりもしています。

このように保証人や引受人のなり手の問題が身近に感じています。

ガイドラインの読み手

医療機関で勤務する職員の方々

このガイドラインは、医療機関の職員ためのものと理解することができます。また、在宅地域従事するものであれば、医療機関が何を求めているのかが、整理されているので、他機関を知る上では、大変参考になるガイドラインでもあります。

医療機関が「身元保証・身元引受等」に求めている機能・役割

「身元保証・身元引受等」の機能としては、

① 緊急の連絡先に関すること
② 入院計画書に関すること
③ 入院中に必要な物品の準備に関すること
④ 入院費等に関すること
⑤ 退院支援に関すること
⑥ (死亡時の)遺体・遺品の引き取り・葬儀等に関すること

と整理されています。こういった6項目はあまり専門職の教科書では教授してくれないところですので、大変参考になりますね。

特に、注意したい点は、⑥の死亡時の対応です。対応を事前に考えておきたいポイントになります。ガイドラインでは、以下のように説明しています。

親族等がいない場合の遺体・遺品の引き取り・葬儀等については市町村が行うこととなります。
可能であれば窓口となっている課や部など(市町村によって違います)に手順を確認しておくとスムーズです。

上記は、在宅においても同じことが言えると思います。生活保護を受けていない方においても、⑥の死亡時の対応は、備えておくことが大切と現任者として思います。

成年後見人と保証人の関係性についてなど他にも大変参考になる記述があります。医療機関に所属する医療ソーシャルワーカーはもちろん把握しておきたいところですね。また、在宅での従事者も身元保証・身元引受の役割を知っておくことが重要です。

意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドライン

最後に、意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインを見ていきたいと思います。

趣旨

本ガイドラインは、専門職後見人はもとより、親族後見人や市民後見人を含めて、後見人、保佐人、補助人(以下「後見人等」という。)に就任した者が、意思決定支援を踏まえた後見事務、保佐事務、補助事務を適切に行うことができるように、また、中核機関や自治体の職員等の執務の参考となるよう、後見人等に求められている役割の具体的なイメージ(通常行うことが期待されること、行うことが望ましいこと)を示すものである。

本ガイドラインにおける意思決定支援は、本人の意思決定をプロセスとして支援するものであり、通常、そのプロセスは、本人が意思を形成することの支援(意思形成支援)と、本人が意思を表明することの支援(意思表明支援)を中心とする(なお、形成・表明された意思をどのように実現するかという意思実現支援は、本ガイドラインにいう意思決定支援には直接には含まれないが、後見人等による身上保護の一環として実践されることが期待される。)。

ここが重要なポイントなので、触れたいと思います。先に挙げた「認知症のガイドライン」との違いが明確にあります。後見事務のための本ガイドラインは意思形成支援・意思表明支援を中心にしているというところです。

日常生活や社会生活に反映することへの支援である「意思実現」もそろって、初めて意思決定支援なのですが、後見人の限界点を示唆しているのではないかと感じました。

そういった「実現」への落とし込みが難しいと感じる事例を数例経験しています。

例えば、この後見事務のガイドラインには家族支援という考え方は含まれていません。後見人と家族の対立場面も具体に目にしていますが、あくまで「本人のエンパワメントが後見人の第一の任務である」といった理解がガイドラインからでき、私は腑に落ちることができたのです。

支援者側の共通認識・基本的姿勢

意思決定支援を行うに際しては、後見人等を含めた本人に関わる各支援者が、本人の意思決定を尊重する基本的姿勢を身につけておく必要がある。そこで、本ガイドラインないし関連する他の意思決定支援ガイドラインをあらかじめ読み合わせておく、又は研修等に参加するなど、意思決定支援を行うに当たっての共通認識を得ておくことも重要である。

だからこそ、上記でも触れられているように、後見人や専門職だけでなく支援者たる家族を含めた意思決定支援の啓発が非常に重要と感じています。

まとめ

5つのガイドラインを簡単ではありますが、紹介してきました。

どれも重要ではありますが、まずは、ここで紹介し順番で閲覧していくことをお勧めしたいと思います。

人生の最終段階における医療・ケアの決定プロセスに関するガイドラインと認知症の人の日常生活・社会生活における意思決定支援ガイドラインは基礎になります。

障害福祉サービスの利用等にあたっての意思決定支援ガイドラインで日ごろの業務での落とし込みがしやすくなるでしょうし、

④身寄りがない人の入院及び医療に係る意思決定が困難な人への支援に関するガイドライン⑤意思決定支援を踏まえた後見事務のガイドラインで、医療機関後見人の役割が良く理解できます。


初めに触れた、例えば理解が得られにくい家族に対して、何に配慮し、どのような態度で、プロセスをたどれば良いのか、5つのガイドラインは大切なことを示してくれています

合意形成もどんどん難しい局面が増えていますので、学生は学びの糧に、現任者はぜひ参考にして、臨床に役立てていきましょう。

みなさんの参考になれば幸いです。

お読みいただきありがとうございました。

めざし