令和6年度介護報酬改定「老人保健施設における社会福祉士の評価について少しの考察」

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記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。

令和6年度介護報酬改定の中で、今回は介護老人保健施設(以下老健)の支援相談員について、着目したいと思います。
私の勤務する法人は病院が母体になっている関係で、老健も運営しています。私のソーシャルワーカーとしてのキャリアは老健を経て、現職に従事していますので、現場の視線も盛り込んでいますので、参考にしてもらえればと思います。

介護老人保健施設とは

まず、老健について簡単に触れておきましょう。

(定義)介護老人保健施設とは、要介護者であって、主としてその心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営むことができるようにするための支援が必要である者に対し、施設サービス計画に基づいて、看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練その他必要な医療並びに日常生活上の世話を行うことを目的とする施設。

介護保険法第8条第28項

とあります。
老健施設については、以下の2点を抑えることが重要です。
在宅復帰、在宅療養支援のための地域拠点となる施設
リハビリテーションを提供する機能維持・改善の役割を担う施設

実際に勤めて感じたことですが、定義にある「看護、医学的管理の下における介護及び機能訓練」という施設機能が大きな特徴になるのだと思います。

施設に配置される管理医師が入所者の主治医になるし、その医師の指示のもと、医学的管理を行っていきます。老健は、病院と福祉施設の中間施設の意味合いで設置されました。急性期の病院と比べると多職種協働で支援していて、ほかの福祉施設と比べれば、その特性から医療機関寄りの施設であるといえると思います。

また老健は、特別養護老人ホーム(特養)などの社会福祉施設ではないのが大きな特徴でしょう。特養と老健といえば、介護保険施設の一つといった「並列」の印象が今では大きいですが、老健の設置は、老人保健制度による昭和63年からなので、介護保険制度が始まる前からあることになります。

老人保健制度は、
本格的な高齢化社会の到来に対応し、疾病の予防、治療、機能訓練等の保健事業を総合的に実施することにより、健康な老人づくりを目指す

となっていて、保健事業がその中心であることが理解できます。
また老健の設置主体は「医療法人」が 75.6%(厚生労働省参照)となっていて、医療法人格をもつ医療機関が設置をしている現状があります。

老健には、常勤の医師1人以上配置されていなければならない施設基準があります。
管理医師が在籍し入所者の主治医となることが大きな特徴で、一定の医療行為が認められています。
また看護師、リハビリテーション(理学療法士・作業療法士・言語聴覚士)といった多職種が配置され働いています。
令和3年のデータでは、全国にある老健は定員371,323人で、施設数が4,279なので、平均すると1施設87床という比較的大きい規模の施設になりますね。

支援相談員とは

さて、いよいよ支援相談員を見ていきましょう。
長らく老健施設の施設基準は「支援相談員100:1」という施設基準で運用が続けられてきました。入所者100名に対して支援相談員は1名配置を義務づけていたわけです。

支援相談員の基準は以下の通り。

支援相談員
(一) 支援相談員は、保健医療及び社会福祉に関する相当な学識経験を有し、次に掲げるような入所者に対する各種支援及び相談の業務を行うのにふさわしい常勤職員を充てること。
① 入所者及び家族の処遇上の相談
② レクリエーション等の計画、指導
③ 市町村との連携
④ ボランティアの指導

介護老人保健施設の人員、施設及び設備並びに運営に関する基準について

また、全国老人保健施設協会によれば、

[支援相談員]
1)介護福祉士
2)その他の介護職員

老健の支援相談員は、老健独自の職種で、相談窓口的な機能を担っています。その人らしく地域で暮らしていくために必要な社会的サポートや、家族と施設、家族と利用者といった関係をコーディネートします。入所者の受け入れ、入所者の日常的な相談、入所者の家族からの相談にのり、利用者をサポートします。
資格要件はありませんが、老健に必ずいる専門職です。

全国老人保健施設協会(全老健)

と紹介されています。

あらためて見ると、「ふさわしい」という大変あいまいな要件ですね。
そして全老健での紹介は、介護福祉士ともなっていますね。
また、現場では「社会福祉主事任用資格」※が相当と考えられていたり、国家資格の「社会福祉士」が必須などと紹介されています。
※福祉事務所現業員として任用される者に要求される資格(任用資格)であり、社会福祉施設職員等の資格に準用)

私が20年以上前老健に勤めた時には、ベテラン社会福祉主事と、若手社会福祉士という構図でした。

介護老人保健施設の推移からみる支援相談員の急増

平成12年介護保険前夜、私が働く市町村においては、医療法人格をもつ地域の医療機関が老健を軒並み開設していきました。
今思えば、個人病院が多い日本の医療業界において、施設を併設する複合型の医療法人の始まりだったと思います。
平成12年からのデータを集計してみました。こういったデータの出し方は、厚生労働省は前年の比較のみになっているので、全体像が掴みにくいですね。改めて以下のグラフを見ても、平成29年ごろまで開設の一途ですね・・・。令和で初めて減少に転じています。

私が老健に配属されたのは平成13年でしたので、その急増の真っただ中だったと言えます。老健の開設に伴って、新米支援相談員が急に増加した経過がありました。

振り返れば、新米同士で老健の支援相談員に的を絞った勉強会を立ち上げて、開催していたりしていたことを思い出します。それは、まだ、支援相談員の複数人配置をしている老健は珍しかったし、横のネットワークがないと老健におけるソーシャルワークって?といった疑問が解消されなかったからです。そういった、ソーシャルワーカーの取り巻く環境を踏まえると、スーパービジョンの展開が見えてくるかも知れませんね。

平成30年度介護報酬改定にみる支援相談員について

老健施設にとっては、大きなインパクトがあった年の介護報酬改定になります。
老健の役割である【在宅復帰・在宅療養支援機能】に対する評価が大きく見直されました。
それは、在宅復帰・在宅療養支援等指標として、以下の10の評価項目を設けられた点です。
①在宅復帰率、②ベッド回転率、③入所前後訪問指導割合、④退所前後訪問指導割合、⑤居宅サービスの実施数、⑥リハ専門職の配置割合、⑦支援相談員の配置割合、⑧要介護4又は5の割合、⑨喀痰吸引の実施割合、⑩経管栄養の実施割合
について、各項目に応じた値を足し合わせた値としたのです。

この10項目を高い基準で実施している施設には、高い報酬が与えられるのです。

その中で、支援相談員に関する項目としては、⑦項目にある支援相談員の配置割合が高い施設を評価する仕組みが取り入れられました。これは当時非常にインパクトがあったのを覚えています。

支援相談員という職種に限ってみれば、老健が事業として開始されてから、長い間ずっと100対1の基準で運用されてきましたので、その配置基準に手が加わったという点では、当時、画期的だったと思います。
この改定を受けて、高い基準を目指すなら、支援相談員は複数配置しましょう(もしくは、配置をし易く)となった。

令和6年介護報酬改定に見る支援相談員について

令和6年に予定している介護報酬改定には、よりインパクトのある改定内容が示されました。介護老人保健施設(改定の方向性)参照。

平成30年から導入された指標(在宅復帰・在宅療養支援等)の内「支援相談員の配置割合」について、社会福祉士配置することでの評価を行うというものです。これには非常に驚きました。

この根拠としているのが、令和4年度老人保健健康増進等事業「介護保険施設における社会福祉士の活用状況と有効性に関する調査研究事業」になります。

その調査研究がとても大切と思いましたので、一部をここに抜粋したいと思います。

社会福祉士の配置の有無によって、①在宅復帰率、②ベッド回転率、③喀痰吸引の実施を要する入所者割合の3指標において有意差がみられたことが意味することは、社会福祉士は、介護老人保健施設の機能と役割である在宅復帰支援と在宅療養支援をより良く発揮することに貢献しており、介護老人保健施設における社会福祉士の配置の有効性を明らかにすることができたと言える。

介護保険施設における社会福祉士の活用状況と有効性に関する調査研究事業

調査研究(回答率は約30%)では、ことごとくと言って良いほど、社会福祉士の有効性を示していました。
社会福祉士の配置が老健機能を高めている現状を伝えてくれるものです。

また、老健支援相談員の現任者にとっては、インタビュー(34名分)のまとめ(P19)は、今後の支援相談員として、インテークから幅広く老健業務の指標になるものだと思う。
対人援助職としての思いポリシーを聞くことができる。例えば「自分の価値観を入れない」など利用者や家族への接し方、心構えなど大切なものばかり。

以下の図からは、個別のケースワークだけではなく、さまざまな接触面に介入していることが把握できます。レジデンシャルソーシャルワーカーとしてこれらを踏まえて、今後の業務に役立てることができるでしょう。

最後に

これまでどうして、老健で活躍する社会福祉士が認められないのか、ずっと疑問だったけれど、令和6年度の介護報酬改定で老健史上、初めて「社会福祉士」が日の目を見ることになります。
更なる老人保健施設の社会福祉士の活躍を期待しています!!・・・それと処遇改善も促進されることも期待して。

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