記事の内容について
- この記事で注目したのは、「療養・就労両立支援」についてです。
- 今回の改定では、特に心疾患や糖尿病といった内科疾患が対象になりました。その影響について。
- 医療機関の社会福祉士・精神保健福祉士がこれから何をしていく必要があるのか。さらなる活躍について触れています。
記事の信頼性
医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年になります。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって8年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。
今回の診療報酬改定では、社会福祉士や精神保健福祉士の文言をたくさん見ることができました。
私がMSWとして勤めていた10年前とは随分と項目も増えたなあと思います。
ますます医療機関における社会福祉士・精神保健福祉士の活躍が期待されています。
大変喜ばしいことです。
療養・就労両立支援について
療養・就労両立支援指導料の見直し
療養・就労両立支援指導料については、以下の通りです。
- B001-9 療養・就労両立支援指導料
- 初回 800点
- 2回目以降 400点
- 疾患に罹患している患者に対して、 当該患者と当該患者を使用する事業者が共同して作成した勤務情報を記載した文書の内容を踏まえ、就労の状況を考慮して療養上の指導を行う。
- 当該患者の同意を得て、当該患者が勤務する事業場において選任されている産業医等に対し、病状、治療計画、就労上の措置に関する意見等当該患者の就労と療養の両立に必要な情報を提供した場合に、月1回に限り算定する。
- 当該患者に対して、看護師、社会福祉士、精神保健福祉士又は公認心理師が相談支援を行った場合に、相談支援加算として、50点を所定点数に加算する。
大まかな流れとしては、以下の図が分かりやすいですね。
療養・就労両立支援指導料は平成30年に新設された比較的新しい指導料です。
指導対象は当初、悪性新生物のみでした。がん患者の就労支援が始まりでした。
そして、令和2年に、脳血管疾患、肝疾患、指定難病が対象に追加になりました。
そして今回、令和4年度診療報酬改定にて、心疾患、糖尿病及び若年性認知症が追加されました。
医療機関は、その診療科によって通院患者は大きく異なります。外来でがん治療を行っていない病院に当たり前ですが、がん患者は来ません。
ですので、がん治療を行っていない病院に所属する社会福祉士(ソーシャルワーカー)には当初、あまり縁のない指導料でした。
今回の改定では、特に心疾患や糖尿病といった内科疾患が対象となることで、対象となる医療機関が格段に増えることが今後考えられます。
ソーシャルワークの視点で、外来や入院機能を社会資源として捉えると、その医療機関に所属するソーシャルワーカーは自らの医療資源(診療科医師等)を、患者さんに提供したり調整したりする存在になります。
糖尿病を専門に診療している先生が医療機関に在籍していれば、自ずとそこで働くソーシャルワーカーは糖尿病患者とかかわることが増えるのです。
ですので、今回の改定で対象となる疾患が増えたことは、この指導料に関わる社会福祉士・精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)も自ずと増えることになります。
以下に、厚生労働省が行っている令和元年「国民健康・栄養調査」の結果を掲載して、新たに追加された糖尿病について参考にしてみましょう。
いわゆる壮年期の40歳以上から59歳までのパーセンテージをみても「糖尿病が強く疑われる者」の割合は大変高いものとなっています。
また、患者数と予備軍を合わせて1,000万人とも指摘されています(国民健康・栄養調査)。
疾患を起因として仕事を休まざるを得ないなど、就労復帰や継続の支援を必要とする患者は多くおられることが推測されます。
令和4年度以降、これまで、それほどこの指導料に関りがなかった、例えば、
- 療養病棟を有する内科を中心とした医療機関
- 地域包括ケア病棟を有する後方支援を中心に担う中小病院
などで勤務する社会福祉士(ソーシャルワーカー)は、今後、自身が所属する医療機関において、支援を必要とする外来患者の掘り起こし、そして内科医との協働など院内のコンセンサスが必要になります。
「そういえば、Aさん仕事のことでも悩んでるっていってたな」とか「入院して外来治療も当面続くから、お子さんがいるBさん、大丈夫かな」など。
仕事や家庭のことは直接診療とは関係がなく、患者の見えにくい声・想いです。
これらを診療にかかわる医師とともに、カバーしていく必要があります。
こういった、一見、捉えにくく見えづらい生活課題にタッチしていくことは、入退院支援加算においても「ヤングケアラー」の項目で評価されました。地域共生社会の流れとの考察は、以下のサイトを参考にしてくださいね。
療養・就労両立支援指導における相談支援に係る職種要件の見直し
次は、職種要件の見直しを見ていきましょう。
第1 基本的な考え方
治療と仕事の両立支援における心理的不安や病状の経過に伴う心理的影響等に対するサポートや、両立支援の関係者間の連携を推進する観点から、療養・就労両立支援指導料について要件を見直す。
第2 具体的な内容
療養・就労両立支援指導料における相談支援加算の対象職種に、精神保健福祉士及び公認心理師を追加する。
とあります。精神保健福祉士がこの療養・就労両立支援指導料の職種として認められました。
中医協では、以下の資料が掲載されていました。
精神保健福祉士が就労支援に関わることの利点として、これだけ端的なまとめはなんとも複雑ですが・・・、わかりやすさという面で参考になりますね。
ソーシャルワーカーの両資格がこういう形で、中医協で着目されることは、素晴らしいことだと思います。
次期改定では、対象疾患に「精神疾患」が対象として挙がってくるのでしょうか。注目したい点になります。
両立支援コーディネーターについて
この指導料を算定するためには、両立支援コーディネーター研修を修了している必要があります。
両立支援コーディネーター養成カリキュラムを見ると、産業や労務に関するところは改めて学びなおす良い機会となりそうです。
これまで、あまり関わりのなかった療養病棟を有する内科を中心とした医療機関、地域包括ケア病棟を有する後方支援を中心に担う中小病院に属する社会福祉士・精神保健福祉士は、しっかりと産業保健と労務管理について学び直したいところですね。
公認心理師にとっては、その養成が始ったばかりで、産業保健の知識としては、最新です。ある程度網羅するのではないかと思われます。
産業や労務に関する情報
事業場における治療と仕事の両立支援のためのガイドライン
現時点で資料として見受けられるのは、こちらのガイドラインでした。
事業場が、がん、脳卒中などの疾病を抱える方々に対して、適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行い、治療と仕事が両立できるようにするため、事業場における取組などをまとめたものです。
内容としては、ソーシャルワーカーの役割として、
- 関係者間の連携
- 情報提供にかかわること
- 両立支援プラン策定
- 主治医との連携
- ハローワークとの連携
などが指摘されていて、医療ソーシャルワーカーへ役割期待が明記されていることが分かりますね。
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000912019.pdf
以下は、私が、公認心理師取得の際に参考にした資料を掲載します。
特にメンタルヘルスケアに関する情報が中心になります。産業保健の学びに役立ててくださいね。
治療を受けながら安心して働ける職場づくりのために
病院における取り組み事例などが掲載されています。相談窓口での就労に関する相談受付・支援など。
https://www.mhlw.go.jp/new-info/kobetu/roudou/gyousei/anzen/dl/140328-01.pdf
職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~
事業者におけるメンタルヘルスケアの実施について記載された指針になります。努力義務ですが、積極的に取り組むことが望ましいとされています。
たとえば、メンタルヘルスケアは、4つあって「セルフケア」、「ラインによるケア」、「事業場内産業保健スタッフ等によるケア」及び「事業場外資源によるケア」です。これらが、継続的かつ計画的に行われることが重要と示されています。
労働者の心の健康のために押さえておきたい基本的な項目になりますね。
https://www.mhlw.go.jp/content/000560416.pdf
心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き~メンタルヘルス対策における職場復帰支援~
職場復帰支援の手引きは、職場復帰支援の流れが5つのステップで掲載されていて、手順書になります。時系列で、どのタイミングで何をするのかわかりやすく掲載されています。
https://www.mhlw.go.jp/content/000561013.pdf
仕事と生活の調和推進のための行動指針
ワークライフバランスについての指針ですね。
http://wwwa.cao.go.jp/wlb/government/top/hyouka/report-16/h_pdf/s1.pdf
まとめ
生活課題は一見、見えづらく捉えにくいものです。そこにしっかりとアプローチしていくことが今後ますます求められます。
突然ですが内閣府において、全世代型社会保障構築会議が開かれています。第3回議事(令和4年3月29日)の中に、以下のような文言があります。
内閣府において、「ソーシャルワーカー」がこのように明記されたことも非常に驚きましたが、間違いなく、今後のキーワードは、地域共生社会になるかと思います。
クライエントのために、相談支援の充実を図り、安心して地域生活をおくることができるようにソーシャルワーカーが支援していく。
今後、ますます医療機関に所属する社会福祉士・精神保健福祉士(ソーシャルワーカー)が活躍していくことが期待されています。