記事の信頼性
医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。
ここでは、令和6年度の診療報酬改定において、回復期リハビリテーションについて取り上げます。運動器リハビリが6単位が上限という驚きの内容もありました。改定を踏まえて、各医療機関は取り組みを進めておられるかと思います。
特にここでは、回復期リハビリテーション病棟入院料に社会福祉士が専従となったことを取り上げたいと思います。私も、リハビリテーション領域の医療ソーシャルワーカーであったので、「ついにそうなったのか・・・」という感慨深い思いがあります。その重大性について、ここでは考えたいと思います。
回復期リハビリテーション病棟の始まり
回復期リハビリテーション病棟は、比較的新しい病院の基準になります。平成12(2000)年に入院料として新設されました。回復期リハビリテーション病棟は、以下の役割を担います。
回復期リハビリテーション病棟は、脳血管疾患又は大腿骨頸部骨折等の患者に対して、ADLの向上による寝たきりの防止と家庭復帰を目的としたリハビリテーションを集中的に行うための病棟
厚生労働省より抜粋
病床数は年々上昇を続けていましたね。この入院料の設置は、地域の中小病院に対するヒットだと研修会にて(回復期リハビリテーション病棟協会理事)講師が、おっしゃっていたことを思い出します。急性期治療後のリハビリテーションを担う受け皿として、地域の中小病院を中心に入院料を取得していきました。
同協会によれば、
人口10万人あたりの回復期リハ病床数が50床を達成し回復期リハビリテーション病棟の質の向上を目指しています。
回復期リハビリテーション病棟協会より
ということで、目下その目標は達成されており(2023年3月1日現在は、人口10万に74床)、質の向上を目指しているという現在になっているようです。
回復期リハビリテーション病棟におけるソーシャルワーカーの配置
さて、ここからは回復期リハビリテーション病棟におけるソーシャルワーカーの配置をみていくことにしましょう。
病院が入院料を取得するためには、厳しい施設基準を満たす必要があります。当初、回復期リハビリテーション病棟には、その機能から理学療法士・作業療法士といったセラピストの設置基準のみとなっており、ソーシャルワーカーを配置する施設基準はありませんでした。
ですが、以下の参考文献からは、
回復期リハ病棟連絡協議会では、ソーシャルワーカーの病棟 1 名配置に向けた活動を平成18年度から開始していた
リハビリテーションスタッフが医療ソーシャルワーカーへ期待する役割──回復期リハビリテーション病棟におけるチーム医療を中心に──
とあります。回復期リハ病棟連絡協議会は、現在の回復期リハビリテーション病棟協会の法人化以前の組織になります。
「病棟に1名のソーシャルワーカーが配置」なんて、そんな時代がくるのかしら?そういった雰囲気が当時はあったと思います。
私も回復期リハビリテーション病棟に勤務する医療ソーシャルワーカーであったので、協会が主催する研修に参加したことがありました。当時の石川誠会長の話を聞いたことを思い出します。石川先生は初台リハビリテーション病院を運営する理事長でもありました(石川誠記念館参考)。先生からは、回復期リハビリテーション病棟におけるソーシャルワーカーへの期待を十分に感じるお話だったように記憶しています。
MSWlabblogでも当時の研修会の貴重なレポートがあります。大変ありがたい資料です。
研修会後の懇親会で、ソーシャルワーカーの取出さんらに直接お会いする機会もあって、私は憧れで目を輝かせていました・・・。令和6年度の診療報酬改定を機に、昔にいただいた名刺を今眺めています。当時の情景が思い出されて、大変に懐かしいです。
石川先生のご活躍については、二木立の医療経済・政策学関連ニューズレター(通巻44号)においても、石川先生の貢献がとても大きいと指摘をされています。
そういった影響力のある先生が、多方面でソーシャルワーカーの重要性を語ってくれていたことは、大きな後押しになったに違いありません。
その後、私自身は地域福祉に関わるようになってからでしたが、先生の突然の訃報には大変に驚きました。
関西でも比較的郊外になる私の地域における医療ソーシャルワーカーの歴史(30年程度)を振り返れば、結核病棟にソーシャルワーカーが配属されていたり、また脊損患者を受け入れていた病院からの在宅での処遇をどうするかといったリハビリテーション領域のソーシャルワーカーがすでに活躍していました。
当時は、今のような社会資源がなかったわけだし、回復期リハビリテーション病棟ができるずっと前から、リハビリテーション領域のソーシャルワーカーが確かに存在していて、ソーシャルワークに従事していたことも忘れてはいけない事実です。
回復期リハビリテーション病棟における社会福祉士の配置
回復期リハビリテーション病棟の施設基準に、「社会福祉士」という文言が登場するのは、平成24(2012)年の診療報酬改定の時でした。協会がソーシャルワーカーの配置への取り組みを始めて、6年が経過しています。振り返れば、そんなに昔のような気もしないのですが、かなり年数がたっていることに改めて気づかされます。
上記のように、高い入院料1を取得するためには、社会福祉士を1名配置しなければならない。要件ができました。(専任は兼務ができるとされており、専従は兼務できないとされています。)
回復期リハビリテーション病棟で勤務する現役の医療ソーシャルワーカーにとっては、この社会福祉士の専任の要件は非常にインパクトがあったことを記憶しています。
当時は、亜急性期(現在では地域包括ケア病棟)には「在宅復帰支援担当者」という要件はあったのですが、職種として社会福祉士でなければならないという明記はありませんでした。
これまでは社会福祉士の診療報酬上の評価は、個別支援の「加算」や「指導料」といったものが多い中、施設基準といったストラクチャーに組み込まれたことは大きな大きな一歩でありました。
体制強化加算としての社会福祉士の配置
次に、社会福祉士にとって大きい改定となったのは、平成26(2014)年度改正でした。回復期リハビリテーション病棟にて、社会福祉士を配置することでの効果を知る上で、以下のような資料が審議会で提示されています。
回復期リハビリテーション病棟で専従の社会福祉士を配置している医療機関が、すでに7割弱であることを提示して、しかも、平均在院日数の短縮にも有意差がでているということを裏付けを示しました。
結果、平成26年の改正では、以下のような「体制強化加算」としての評価が新設されることになります。
この「社会福祉士経験3年以上」というのが非常に仕切りが高かった・・・。求人で「3年以上の社会福祉士」がリハビリテーション病棟で増えたのもこの基準のせいです・・・。
この時点で、「加算」という評価ではあるものの協会が狙う「ソーシャルワーカーの病棟1名配置」という体制がかなり現実味を帯びてくるものでした。高い基準を取得するためには、「1病棟に1名社会福祉士専従配置」することが、回復期リハビリテーション病棟を有する病院によっては、可能になったわけです。
令和6年度 回復期リハビリテーション病棟 社会福祉士専従配置
それでは、今回の令和6(2024)年の改定内容をみていきましょう。
厚生労働省の審議会で、以下の資料が示されています。
実態として、平成26年から始まった体制強化加算を取得していなくても「社会福祉士の配置が進んでいる」現状が確認されました。議事録からは、その加算自体の役割は終わったという意見が述べられています。
そして、令和6年2月14日の答申では、以下の内容が提示されました。
回復期リハビリテーション病棟入院料1と2の施設基準に「当該病棟に専従の常勤社会福祉士が1名以上配置されていること」と盛り込まれました。
全国では、この回復期リハビリテーション病棟入院料1と2を取得している医療機関は、全体の76.6%(2023回復期リハビリテーション病棟協会参照)になります。
回復期病棟における約8割(約71,000床)に影響する大変重大な改定内容になり、その重大性が指摘できます。
協会としては平成18(2006)年から目指していた「ソーシャルワーカーの病棟1名配置」がようやく実現することになりました。当初思い描いた「そんな時代がくるのか?」の幕開けです。
協会にとっては、まさに悲願が達成されたといっていいでしょう。平成18年から、18年の年月が経過したことになります。医療福祉士(参考)の話がなくなり、社会福祉士が診療報酬上評価されることは100年先もない(昔の研修でそんなことを聞いた覚えがある)と言われた時代もありました。
しかし、リハビリテーション領域のソーシャルワーカーたちがバトンを繋ぎ、協会の不断の努力とともに、全国に93,000床ある回復期リハビリテーションで、活躍する医療ソーシャルワーカーたちの日々の積み重ねの結果であります。
疑義解釈について
令和6年度診療報酬改定に対する疑義解釈が通知されました。この中に、社会福祉士専従等の「等」についての解釈が示されました。
問 | 回答 |
「A308」回復期リハビリテーション病棟入院料1及び2の 施設基準において、「在宅復帰支援を担当する専従の社会福祉 士等」を1名以上の常勤配置を行うことを求めているが、「社会 福祉士等」には社会福祉士の他にどのような職種が含まれてい るか。 | 在宅復帰支援に関する十分 な経験を有する専従の看護 師が含まれる。 |
ここでは、リハビリテーション領域のソーシャルワーカーである社会福祉士がどのような経過をたどって、回復期リハビリテーション病棟に、社会福祉士が専従となったのかをまとめてきました。
その軌跡は、ゆるぎないものだと思います。
ここで、指摘しておくべきことは、看護師の専門性と社会福祉士の専門性は明らかに別のものだということです。それは、自明のことで、両資格は協働はすべきだが、当然差し替えはできないものです。
人材不足の状況を鑑みて、あくまで病院における「柔軟な運用」を可能にしていると、この疑義解釈を理解することが、とても大切になると私は考えるのです。
これからの回復期リハビリテーション病棟におけるソーシャルワーカーへの期待
令和6(2024)年からの新しい時代の幕開けに、これから回復期リハビリテーション病棟に配属される社会福祉士への期待はどのようなものでしょうか。
私としては、現在地域福祉に従事しているソーシャルワーカーとして、今回施設基準に盛り込まれた「地域支援事業に協力する体制を確保していること」が大切なキーであると考えています。
地域支援事業は、総合事業や包括的支援事業(地域包括支援センター)がそれに当たります。簡単に言えば、地域支援事業は市町村が実施している事業です。
総合事業については、最近の動向も踏まえて以下の記事を参考にしてください。
地域に根差したリハビリテーションの取り組みは、回復期リハビリテーション病棟に課せられた一つの大切な使命です。
ぜひ、回復期リハビリテーションの社会福祉士は、日々のケースワーク(ミクロレベル)とともに、メゾレベル(地域活動)でフィールドでの活躍の場を専従業務として、広げてほしいと思います。
- 地域ケア会議の出席もどんどん回復期リハビリテーション病棟から参加してほしいと思います。地域包括支援センターが主催する地域ケア会議は地域のニーズを抽出する場でもありますので、地域での病院の役割は何か、地域にはどういったニーズがあるのかを把握して、自らが所属するリハ病院としての機能をさらに発揮、そして強化する働きかけをしてください。
- 地域で生活する高齢者を含む住民の自立支援に資するアドバイスもたくさん可能だと思います。互助力が低下しつつある老人会やコミュニティに対して、健康増進の取り組みを地域支援事業ではすでに展開しているので、そこへの病院の協働は非常に有益でしょう。回復期リハビリテーション病棟は、地域にある貴重な医療資源の塊ですから、そういった橋渡しを専従社会福祉士が担ってほしい。
- 脳卒中の再発防止に資する生活習慣病予防セミナーや人工股関節置換術についての講座など、地域住民やケアマネジャー等に対しての研修機会なども地域貢献の一つになるでしょう。
今後、リハビリテーション領域のソーシャルワーカーとしての活躍が期待されているのです。新しい時代に、手を取り合って、地域包括ケアを実現するときです。
読んでいただき、ありがとうございました。
めざし