精神保健福祉士とは その活躍・将来性について~「精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」から少しの考察~

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コラム
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令和4年6月9日付で、地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会報告書(以下「地域で安心して」)がまとめられました。

この「地域で安心して」は、これからの精神保健に関する大切な報告書になりますね。

その中で「精神保健福祉士」に関することの言及があって、ここではそのことを取り上げたいと思います。

この報告書は、今後の精神保健福祉士に大きな影響を与えると思われますので、これから精神保健福祉士将来性や、求められることについて触れていければと思っています。

記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。

記事の内容

  • 地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会
  • 精神保健に関する市町村等における相談支援体制について
  • 行政に精神保健に関する相談があることで助かったこと
  • 報告書にみる精神保健福祉士についての言及
  • まとめ
  • 今後のヒントになるもの

精神障害にも対応した地域包括ケアシステム

この「地域で安心して」の報告書の中では、大切なキーワードとして「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムに関わる検討会」報告書が踏まえられています。

少し整理しますと

令和3年3月「精神障害にも対応した地域包括ケアシステム構築に関わる検討会」報告書

令和4年6月「地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会」報告書

となっていて、「精神にも」があって、今回の「地域で安心して」があるという時系列です。

高齢福祉で地域包括ケアシステムに関わって

私は高齢福祉で地域包括ケアシステムの一端で、実務を行っています。

その業務の中で感じているのは、高齢福祉精神障害地域包括ケアの親和性が高いという点です。

端的な例ですが、認知症も精神疾患の一部であって、当事者が抱えている「生きづらさ」については、精神障害の方々と類似する点が多く見られます。

高齢で特に介護保険関係で立ち上がったこの地域包括ケアシステムという概念が、精神にも対応していく方向性になっている点を押さえておきたいところですね。

精神保健に関する市町村等における相談支援体制について

課題について

さて、具体的に「地域で安心して」の報告書の内容を見ていきましょう。

まず、精神保健福祉士大きくかかわることになる「相談支援体制」についての課題です。

私は、この「相談」という文言が厚労省などから出てくると、どうしても「グッ」っと見入ってしまうのです。職業病でしょうか・・・。

ソーシャルワーカーとして、この「相談」を生業としているので、どうしても、・・・こだわってしまいます。

さて、報告書では、

精神保健福祉法では、市町村における精神保健に関する相談業務の規定があるが、精神障害者に対する努力義務として規定されるにとどまり、法令上、市町村の責務として定められていない

と説明しています。

筆者は政令指定都市等で実務を担っているので、管内には保健所が設置されています。

保健所には、精神保健福祉士保健師在籍していて、地区担当者が決まっています。包括としては、日ごろから連携をよくとっているので、この課題は実感としてありませんでした。

行政に精神保健に関する相談があることで助かったこと

私は、保健所の精神保健福祉士や保健師さんから、精神疾患や障害によって、生きづらさを抱えた当事者への支援の在り方について学ぶ機会を相当に得ました

具体的な点を以下に挙げたいと思います。

プレゼンテーション(個人情報に配慮した)

個別地域ケア会議の時に、地域住民に対して当事者の理解を得ることが必要になる場面がたくさんあります。

個別地域ケア会議については以下を参考にしてくださいね。

ここで、大切なのは精神疾患の方の個人情報への配慮です。

治療経過などは、かなり個人情報になるので、そのことに配慮しながら、当人が抱える「生きづらさ」について適切に説明できるプレゼンテーション能力が求められます。

精神疾患によって、どのようなことが本人の生きづらさになっているのか・・・。今、どのように囚われているのか、本人が考える物事の優先順位からの行動化などを分かりやすく説明しなければなりません。

これを代弁するには、当人の生きる世界を理解していないとできません。

そして、

  • 生活課題を住民にわかりやすく、かみ砕いて伝える
  • ②住民の一定の理解を得て協力体制(ネットワーク)が構築される

この2点だけでもほんとうに難しいことなのですが、目の前で住民に説明・合意形成されているのを見て、私は感動しました。

医療に精通し、当事者にも寄り添って、地域での支援を展開できる。まさに精神保健に関するコーディネーター(ケースマネジメント)としての役割でしょう。

「責務でない」という点から、市町村によっては、相談業務の取り組みが異なれば、このような支援が受けられない市町村もあるという現実があります。

地域福祉の立場からも、それは本人に対しての精神保健に関する支援の質を保てないことに直結するので、明確に困ると指摘できます。

対応の方向性 基本的な考え方

課題に対しての方向性が以下になりますので抜粋します。


○ 昨年3月とりまとめの「精神障害にも対応した地域包括ケアシステムの構築に係る検討会」報告書を踏まえ、身近な市町村で精神保健に関する相談支援を受けられる体制を整備することが重要である。
○ 他方で、これまで医療・精神保健に関する相談支援は主に都道府県の役割とされていたこともあり、直ちにこれを市町村の義務としても、専門職の配置、財源の確保、精神科医療機関との連携、保健所・精神保健福祉センターからのバックアップ体制の確保に課題があり、地域によっては相談支援の質が確保されないおそれがあるとの指摘があった。
○ こうした実態を踏まえ、精神保健に関する相談支援が全ての市町村で実施される体制が整うよう、まずは国において以下の措置を講じることにより、市町村の実施体制の整備を進めていくべきである。

冒頭にふれた「精神にも」を踏まえた論議となっていることが分かりますね。

そして、精神保健に関する相談支援がすべての市町村で実施される体制を目指していくことが明確に掲げられています。

報告書にみる精神保健福祉士についての言及

さて、いよいよ本稿の本題ですね。

報告書の中で、精神保健福祉士への言及が見られている箇所をみていきましょう。

法制度に関し検討すべき事項

精神保健福祉法に関し、以下の措置を講じることが必要である。
① 都道府県及び市町村が実施する精神保健に関する相談支援について、精神保健福祉法に基づく相談支援を受けている精神障害者に加え、精神保健に関する課題を抱える者(※1・2)に対しても、相談支援を行うことができる旨を法令上規定するべきである。
※1 具体的には、介護保険法(平成9年法律第 123 号)や子ども・子育て支援法(平成 24 年法律第 65 号)上の相談支援等、社会福祉又は保健医療に関する法律上の相談支援を受ける者であって精神保健に関する課題を抱える者とするべきである。
※2 同様に、精神保健に関する相談支援の専門職種である精神保健福祉士について、その業として、精神障害者以外の精神保健に関する課題を抱える者への相談支援が含まれる旨を明らかにするべきである。

行政の精神保健に関する相談支援を充実させていく方向が提示されて、幅広く精神保健に関する課題を抱える者に対しても相談支援を行うことを法の中に明記していくということになります。

※1精神保健に関する課題を抱える者とは

「精神保健に関する課題を抱える者」とはいったいどういった人でしょうか?

地域福祉の現場の立場からみれば、受療受診がそもそもできていない当事者も、多数見受けられています。例えば、

  • 明らかに要治療だが、本人の病識がないので受診の必要性を感じてもらえない。結果、必要な受診につながらない。
  • 被害妄想のようなものにとらわれていて、日常生活がその妄想によって、大きく影響を受けてしまい、当事者の大切な人たちとの人間関係がうまくいかなくなってしまう。

相談支援の現場では、精神障害なのかどうかはっきりしないが、支援者が見立てると精神保健に関する生きづらさを抱えた方、その家族など多く存在しているのです。

ですので、

どうしたら、受診してもらえるだろう?とか、家族とともにどのようにアプローチするのかとか、

関係者で知恵を出し合って、本人の生きづらさや家族や地域にどう寄り添うのか。日々模索しているが現状です。

例えば、介護保険法に基づいて、すべての市町村で包括の相談支援は実施されていますが、包括が関わっている対象者の中から、精神保健に関する相談にしっかり市町村が応じていく

これを、ちゃんと法の下で規定していくべきという方向性を示しています。

※2精神保健福祉士について

太文字の部分ですね。ここが重要なポイントになりますね。再掲します。

「精神保健に関する相談支援の専門職種である精神保健福祉士について、その業として、精神障害者以外の精神保健に関する課題を抱える者への相談支援が含まれる旨を明らかにするべきである。」

これは、いったいどういった意味なのでしょうか?

私は、はじめこの一文を読んだときは、ちょっと掴み切れなかったです。

これを次に詳しくみていきたいと思います。

自らバージョンアップするということ

この精神保健福祉士の定義についての見直しは、第7回地域で安心して暮らせる精神保健医療福祉体制の実現に向けた検討会議事録から見ることができます。

以下は議事録からの抜粋になります。

(中略)現に市町村等々も含めまして精神保健福祉士が市民の方々の精神保健に対応しているところもありますが、精神保健福祉士法の定義からはそこが役割として読み取りづらい面があるので、精神保健福祉士法の定義の改正もできれば合わせて御検討いただけるとありがたいです。

この発言は精神保健福祉士協会としての発言になります。この発言を踏まえて後、報告書に明記されています。

自らのバージョンアップ自分たちでチャレンジしていくということです。

私は、議事録などでしかうかがうことしかできないわけですが、ここに至る経過は様々あって、たどり着いた結果なのでしょうね。素晴らしいことだと思いました。

社会福祉士と精神保健福祉士との比較

現任者として、わかりやすく捉えるためには、この「相談業務」に関わる2つの国家資格の単純な比較が良いと思います。

精神保健福祉士「精神保健福祉士」とは、精神保健福祉士の名称を用いて、
精神障害者の保健及び福祉に関する専門的知識及び技術をもって、
精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け
又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者
の地域相談支援の利用に関する相談その他の社会復帰に関する相談に応じ、
助言、指導、日常生活への適応のために必要な訓練その他の援助を行うことを
業とする者をいう。
社会福祉士「社会福祉士」とは、社会福祉士の名称を用いて、専門的知識及び技術をもつて、
身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに
支障がある者の福祉に関する相談に応じ、助言、指導、福祉サービスを提供する者
又は医師その他の保健医療サービスを提供する者その他の関係者との連絡及び調整
その他の援助を行うことを業とする者をいう。
それぞれの根拠法から筆者まとめ

社会福祉士については、これまで資格の見直しを重ねてきました。資格の成り立ちについては以下を参照してくださいね。

社会福祉士が対象とするクライエント像は、

身体上若しくは精神上の障害があること又は環境上の理由により日常生活を営むのに支障がある者

となっています。

身体や精神のみではなく、クライエントの置かれている環境上の理由対象範囲としているため、その対象者は当事者だけでないこともあります。

例えば、本人は健常であっても、虐待やDVなども相談支援として対象になってきます。

相談支援に従事していると、あまり意識はしないのですが、例えば「包括の社会福祉士の業務」は、「社会福祉士の定義」とちゃんと合致していることが分かります。

一方、精神保健福祉士が対象としているクライエント像は、

精神科病院その他の医療施設において精神障害の医療を受け、又は精神障害者の社会復帰の促進を図ることを目的とする施設を利用している者

となっています。

精神保健福祉士が対象としているのは、現に医療を受けている者であったり、施設利用をしている者への相談支援となっているため、精神障害者以外の精神保健に関する課題を抱える者への相談支援が含まれていない。という理解ができるわけです。

2010年に精神保健福祉士法は改正しているのですが、地域相談支援を対象者に含めたものでした。

精神保健福祉士のさらなる活躍

精神保健に関する相談支援が全ての市町村で実施される体制を目指していくためには、この相談支援の中核を担う精神保健福祉士のさらなる活躍が期待されているわけです。

だけど、法が合っていない。ということになります。

この報告書を受けて、精神保健福祉士法の改正は必至でしょう。

その改正文言やその意味するところが、今後どうなっていくのか注視していく必要がありますね。

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案

障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律等の一部を改正する法律案(令和4年10月26日提出)が提出され、衆議院・参議院にて可決されました。

厚生労働省から第210回国会(令和4年臨時会)提出法律案が提示されていて、その中に精神保健福祉士に関する大切な資料を以下に抜粋します。

地域の障害者・精神保健に関する課題を抱える者の支援体制の整備

市町村等が実施する精神保健に関する相談支援について、精神障害者のほか精神保健に課題を抱える者(※)も対象にできるようにするとともに、これらの者の心身の状態に応じた適切な支援の包括的な確保を旨とすることを明確化する。また、精神保健福祉士の業務として、精神保健に課題を抱える者等に対する精神保健に関する相談援助を追加する。

法律案要綱(精神保健福祉士法の一部改正)

第八 精神保健福祉士法の一部改正
一 精神保健福祉士の業務に、精神障害者及び精神保健に関する課題を抱える者の精神保健に関する相談を追加すること。(第二条関係)
二 その他所要の改正を行うこと。

これまで、さまざまな論議の流れがあって、精神保健福祉士の業務拡大することになりました。

今後の精神保健福祉士についてヒントになるもの

今後の精神保健福祉士については、精神保健福祉士の養成課程の見直しが参考になります。

精神保健福祉士養成課程における教育内容等の見直しについて

また、協会等がすでに取り組みを進めていることがヒントになってくると思います。

日本精神保健福祉士協会 柏木一惠氏のスライド

協会はすでに、2020年において英語による表記及び略称をPSWからMHSW(メンタルヘルスソーシャルワーカー)へ呼称を変更しています。これには、任用の拡大への意識がすでにあったのでしょうね。今回の「地域で安心して」報告書の中でも、ここでは触れていませんが、協会の提出した資料は素晴らしいと思いました。

PSWという名称を考える

いろんな先生方の意見が掲載されていて、大変興味深い資料になります。Y問題は、やっぱり知らなくてはいけない。


まとめ

この報告書の中で、精神保健福祉士に対する期待は大変大きいものです。

任用の場が拡大していくことを示唆し、根拠法についてまで、改正を言及しています。

地域で安心して」報告書からみる精神保健福祉士の役割は、「精神障害者以外の精神保健に関する課題を抱える者」といったメンタルヘルス全般が対象になってきており、その幅広いニーズに対応していくことが求められています。

そして、精神保健福祉士法の改正によって、その担う業務は拡大します。

ですので、ここでは「精神保健福祉士の将来性は十分にある」と指摘出来るかと思います。

私も一人の精神保健福祉士として、日々研鑽していかねば💦

めざし

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