令和4年度(2022)診療報酬改定 在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院の新たな施設基準~これからの地域ケア会議を考える~

スポンサーリンク
コラム
スポンサーリンク

記事の内容について

  • 今回の改定では、在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院による地域連携の推進が示されました。その影響を考えます。
  • ここでは、医療従事者の方には、地域支援事業や地域ケア会議について触れ、
  • 市町村事業にかかわる方には、診療報酬改定の内容を踏まえてわかりやすく解説しました。

記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年になります。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって8年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。


現場の話を少し(本題の前に)

今回の診療報酬改定においても、医療と介護が連携できるようにいろんな仕掛けが施されました。

介護保険法を根拠法に持つ地域包括支援センターに、保険医療機関を管轄する厚生局から問い合わせが入りました。数年前はそんなことは考えられませんでした。

私が現場で体験しているこの一つのことを取り上げてみても、近年、医療と介護の連携が推進されていることを実は物語っています。

なぜ、これまであまり関わりの無かった医療を管轄する厚生局から、介護関係の地域包括支援センターに問い合わせが入ったのでしょう?

このサイトにて、その理由を明らかにしていきます。

地域福祉に関わる現任者が、今後の医療機関と地域福祉の連携についてわかりやすく解説していきます。

在支診及び在支病による地域連携の推進

診療報酬改定の答申の内、表題の内容を具体的に触れていきましょう。

第1 基本的な考え方
質の高い在宅医療の提供を更に推進する観点から、地域支援事業等に係る関係者と連携することが望ましい旨を機能強化型の在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院の要件に明記する。
第2 具体的な内容
機能強化型の在宅療養支援診療所及び在宅療養支援病院について、市町村が実施する在宅医療・介護連携推進事業等において在宅療養支援診療所以外の診療所等と連携することや、地域において 24 時間体制での在宅医療の提供に係る積極的役割を担うことが望ましい旨を施設基準に明記する。

この文面には、医療保険と介護保険の両方が盛り込まれています。なので、少しややこしい。

例えば、「地域支援事業」や「在宅医療介護連携推進事業」は介護保険法に位置付けられています。

ここではまずその文言を触れていくことにします。

ですので、当サイトの活用方法としては、

  • 医療機関の方は「介護保険に関すること」を見てくださいね。
  • 市町村(包括など)の介護保険の方は「医療保険に関すること」を参照してください。

介護保険に関すること

地域支援事業とは

地域支援事業とはなんでしょうか。以下の文面を抜粋しました。

予防給付のうち訪問介護・通所介護について、市町村が地域の実情に応じた取組ができる介護保険制度の地域支援事業へ移行(29年度末まで)。財源構成は給付と同じ(国、都道府県、市町村、1号保険料、2号保険料)。
○既存の介護事業所による既存のサービスに加えて、NPO、民間企業、ボランティアなど地域の多様な主体を活用して高齢者を支援。高齢者は支え手側に回ることも。

といろいろ書かれてあります。

ここで大切なのは黄色の下線部分です。地域支援事業といえば市町村の事業なのです。私が勤務する地域包括支援センターも包括的支援事業という市町村の事業になります。

診療報酬改定にある「地域支援事業等に係る関係者と連携する」とは、市町村(実施している事業)の関係者と連携を取る必要があると理解できます。

在宅医療・介護連携推進事業とは

次は、在宅医療・介護連携推進事業について見ていきましょう。

在宅医療・介護の連携推進については、これまで医政局施策の在宅医療連携拠点事業(平成23・24年度)、在宅医療推進事業(平成25年度~)により一定の成果。それを踏まえ、介護保険法の中で制度化。
介護保険法の地域支援事業に位置づけ、市区町村が主体となり、郡市区医師会等と連携しつつ取り組む。
○ 実施可能な市区町村は平成27年4月から取組を開始し、平成30年4月には全ての市区町村で実施。

上記のようにいろんな経過があって、現在の在宅医療・介護連携推進事業は、介護保険法の地域支援事業に位置付けられています。

これまでの保健所が配置されている市町村においては、保健所が中心となって医療との連携、例えば神経難病などのネットワーク事業などは実施してました。

しかし、市町村行政(高齢分野)が中心となって医療と連携することは、ほとんどありませんでした。

この在宅医療・介護連携推進事業の開始とともに市町村が医師会等と定期的に意見交換などの機会を持つようになったわけです。

私が勤める地域包括支援センターの市町村においても、定期的に医師会等と話し合いを重ねています。行政保健師さんたちを中心に一つ一つ積み上げてきている真っ最中といえます。

医療従事者においては、「地域支援事業」と「在宅医療・介護連携推進事業」の2つの文言を押さえておくことが大切ですね。

地域ケア会議とは

地域ケア会議とはなんでしょうか。

地域ケア会議は、高齢者個人に対する支援の充実と、それを支える社会基盤の整備とを同時に進めていく、地域包括ケアシステムの実現に向けた手法。

具体的に見ていきましょう。

会議にて何を話し合うのか?それは「多職種の協働による個別ケース(困難事例等)の支援を通じた」とあります。

ベースは個別ケースになります。カンファレンスとの違いは、処遇を考えるだけではなくて、以下の①~③の項目もきちんと会議の中で行うことが求められています。
①地域支援ネットワークの構築
高齢者の自立支援に資するケアマネジメント支援
③地域課題の把握

たとえば、いわゆる「多職種連携会議」などは①のネットワーク構築を中心に企画されることが多いものです。

多職種連携会議にて、医師・歯科医師・薬剤師等の様々な職種とのグループワークを通じて、いろんな連携の取り方が知れたとします。そこに参加した介護支援専門員が実践するケアマネジメントの質も高まります。これは、②のケアマネジメント支援に該当します。

そして、主催した地域包括支援センターとしては、その会議内で意見交換されたこと(例えば、医療(医師)は仕切りが高い。ケアマネジャーは医療の知識が不足しているなど)③の地域課題として整理していく機会となります。

今後、医療との仕切りを低くしていくためにはどうするのか。ケアマネジャーの医療知識をどう充実させていくのか。そういった環境整備を地域包括支援センターは実施していきます。

このように「個別支援」と「社会基盤整備」の両輪で行っていく手法が、地域ケア会議になります。

法的根拠介護保険法第115条の48で定義されています。

個別地域ケア会議の実践については、以下を参照してくださいね。

医療保険に関すること

在宅療養支援診療所とは

在宅療養支援診療所とは、簡単に言えば、在宅患者に対して24時間対応が可能な医療機関として評価された施設を指します。

入院できる病床を常に確保しているとか、訪問看護ステーションと連携して24時間体制を整備しているとか、在宅医療を切れ目なく提供できるように、さまざまな条件が設けられています。

余談ですが、医師会の先生と話すと「この施設基準は厳しい」と言われていました。そのドクターは「施設基準の専門(医事課等)もいないし、簡単に取りに行く施設基準ではないね」と言われていました。

スタッフが限られた診療所の先生からすると、少し仕切りが高いのかもしれません。

さて、施設基準は3つあり、それぞれの特徴をざっくりまとめています。

施設基準
在宅療養支援診療所(1)単独型診療所単独で行う方が大変ですので、
それが(1)単独型となって点数も高く評価されています。
在宅療養支援診療所(2)連携型ほかの医療機関と連携して実施する場合は
(2)連携型となっています。
在宅療養支援診療所(3)それ以外の基準になります。

在宅医療・介護連携推進事業との連携の明記

令和4年度診療報酬改定で示された資料は、以下になります。

市町村の行政職員や地域包括支援センターの職員が着目したいのは、一番下の⑩の項目です。

今回、令和4年度診療報酬改定において新たに付け加えられた重要な施設基準になります。

前段に触れた介護保険法に規定された在宅医療・介護連携推進事業(地域支援事業)が明記されています。

市町村事業との連携が、在宅医療を担う医療機関の施設基準に初めて組み入れられたことになります。

在宅療養支援診療所の新たな施設基準

さて、ここでは令和4年度の診療報酬改定の内容について、突っ込んで触れていきます。

以下は、在宅療養支援診療所の施設基準の詳細になります。

この中で着目したい点が、の下線部のところです。

ケ 年に1回、在宅看取り数及び地域ケア会議等への出席状況等を別添2の様式11の3を用いて、地方厚生(支)局長に報告していること。

機能強化型在宅療養支援診療所・病院にはなかった新たな条件として「地域ケア会議への出席」として盛り込まれました。

以前からあった医療従事者の地域ケア会議への参加要件

医療従事者の地域ケア会議への参加が要件になることは、実は今回が初めてではありません。

大きなインパクトがあったのは、平成30年診療報酬改定における歯科医師における地域ケア会議への参加要件でした。

地域包括ケアシステムの構築と医療機能の分化・強化、連携の推進として、かかりつけ歯科医の機能の評価において、以下のような要件が盛り込まれました。

このイの項目に「地域ケア会議に年1回以上出席していること」が要件なりました。

これによって、歯科医師会をはじめとするの歯科の先生たちとの連携は、深まってきていると思います。

ただ、11項目の内の1つですし、11項目の内3つ以上を満たせばよいので、地域ケア会議に出席することが義務付けられているわけではありませんね。


令和2年度調剤報酬改定では、「地域支援体制加算」の要件にて「地域の多職種と連携する会議の出席回数」が求められました。

調剤薬局の加算ですので、薬剤師に関わる加算になります。

その疑義解釈(診療報酬算定などについて医療機関などから受けた問い合わせを取りまとめた資料)の中で、地域ケア会議が挙げられていました。

  • 【Q】地域支援体制加算の施設基準における「地域の多職種と連携する会議」 とは、どのような会議が該当するのか。次のような会議が該当する。
  • 【A】
    • 介護保険法第115条の48で規定され、市町村又は地域包括支援センターが主催する地域ケア会議
    • イ 指定居宅介護支援等の事業の人員及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第 38 号)第 13 条第 9 号で規定され、介護支援専門員が主催するサービス担当者会議
    • ウ 地域の多職種が参加する退院時カンファレンス
      (疑義解釈資料 令和2年3月31日)

ここで挙げた他にも、診療報酬上で地域ケア会議への参加によって評価される内容はあります。


冒頭に触れました、なぜ、管轄が異なる厚生局から地域包括支援センターに問い合わせが入ったのか、その答えがこれらになります。

保険歯科や保険薬局から、上記の実績報告を受けた厚生局が、地域ケア会議を主催する地域包括支援センターに、「この多職種連携会議は地域ケア会議ですか?」と問い合わせたわけです。

そして、今回は医療機関の施設基準ですから、地域ケア会議の重要性はさらに高まったと言えます。

現任者が見る地域ケア会議の現在と未来

地域包括支援センターは、機関の医師等に呼びかけを個別で行ったり、市町村を通じて医師会からアナウンスしてもらったり、地域ケア会議への参加をこれまで試行錯誤して行ってきていると思います。

しかし現在「地域ケア会議」を地域包括支援センターで開催していたとしても、参加する医療機関の任意にゆだねられていました。

「先生は忙しいから、仕方ない・・。」と、私も実のところ何回も諦めては、再度チャレンジしてきたところがあります。

今回の診療報酬改定で新たな基準が設けられたことで、医療機関は「地域ケア会議」に参加をし、管轄の厚生局に報告する必要が出てきます。

これは、地域ケア会議を企画調整する地域包括支援センターとしては非常に大きいことだと思えてなりません。

医療と介護の制度の相互理解

ですが、一つ現場において懸念することがあります。それは医療と介護の制度の相互理解難しいことです。

地域包括支援センターの職員多くは福祉分野の職員であり、診療報酬改定の内容を把握するに至りません。

やはり、日常業務として、その必要があまりないことが大きな要因です。もちろん、介護保険や障害福祉については、精通しているわけですけれど。

市町村に勤務する行政職員においても、同様に診療報酬改定の内容に触れる機会はほとんどありません。これは、保健所職員においても同じことが言えます。

保健所は医療法上の医療監査は実施しますが、保険医療機関(診療報酬)の指導監査は厚生局となっているからです。

市町村の事業を担う職員に、診療報酬に精通した人材はあまりいない(精通しようがないとも言えます)のが現状ではないでしょうか。

では、医療従事者はどうか。これも同様の理由で、市町村の事業については知る機会がほとんどありません

医療と介護の連携を推進するために必要なことは、職種間の相互理解ももちろんそうですが、これからはますます制度的な相互理解も不可欠だと思います。

  • これから必要な制度の相互理解
  • 医療機関は、地域支援事業や地域ケア会議のことを理解する。
  • 市町村(包括等)は、在宅療養支援診療所の施設基準等について理解する。

今後、地域ケア会議を主催する地域包括支援センターの職員は、今回の診療報酬改定内容をふまえて圏域内医療機関へのアプローチを行っていくことが重要になります。

相互理解のために必要な情報収集

在宅療養支援診療所の一覧

市町村の方(包括など)は、自分の地域に在宅療養支援診療所等の取得情報が重要です。これについては、日本医師会がJMAPというツールを作成しています。

各都道府県医師会、郡市区医師会や会員が、自地域の将来の医療や介護の提供体制について検討を行う際の参考、ツールとして活用していただくことを目的としているようですが、一般でも検索することができるようです(2022年4月現在)。

私も、ここで自分の所属する圏域の医療機関を調べることができました。施設基準(1)~(3)ごとで分かれているので大変便利ですね!ご参照ください。

地域医療情報システム(日本医師会)
JMAPは、各都道府県医師会、郡市区医師会や会員が、自地域の将来の医療や介護の提供体制について検討を行う際の参考、ツールとして活用していただくことを目的として、日本医師会が運営しています。

あと、医療機関の情報をまとめている都道府県もあるようですね。いくつか確認することができましたので、調べてみましょう。

地域ケア会議の把握

医療機関の方は、開催される会議が「地域ケア会議」なのかどうか把握することが今後必要になります。

地域ケア会議については、前段に触れましたが、その内容を以下に抜粋します。

  • 自立支援に資するケアマネジメントの支援
  • 支援困難事例等に関する相談・助言
  • 地域包括支援ネットワークの構築
  • 自立支援に資するケアマネジメントの普及と関係者の共通認識
  • 住民との情報共有
  • 課題の優先度の判断
  • 連携・協働の準備と調整
  • 潜在ニーズの顕在化
    • サービス資源に関する課題
    • ケア提供者の質に関する課題
    • 利用者、住民等の課題 等
  • 顕在ニーズ相互の関連づけ

こうやって並べて挙げただけでも、非常に幅が広いと言えますね。

地域包括支援センターが主催する会議は、ほぼほぼ「地域ケア会議」に該当してくるのではないでしょうか。

私が勤務する市町村では、医療連携や多職種連携などは基本的には地域ケア会議として位置づけて、実施しています。

この点においては、運営する市町村によって異なる点もあるかと思いますので、参加打診があった際に、「これは地域ケア会議か」と尋ねられることが確かでしょう。

また、参加を呼び掛ける市町村行政や地域包括支援センター側も、「これは介護保険法115条48に規定された地域ケア会議です」等と銘打って、わかりやすく案内文等を作成して呼びかけていくことが、医療機関側の参加のきっかけになり、とても大切になります。

制度が違えば縦割りになってしまう。

その垣根を低くし、相互に理解することで、市町村民が安心できる体制づくりを整えていきましょう。

タイトルとURLをコピーしました