福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会について~福祉用具貸与のみのケアプラン報酬の引き下げについて思うこと~

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コラム
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福祉用具貸与を利用している者に対するケアマネジメントについて、どのように考えるべきか。議論されています。

ここでは、ケアマネジメントに関わる専門職からみれば、今回の提案の一つ福祉用具貸与のみのケアプランのケアマネジメント報酬の引き下げについては、間違っていることを指摘していきたいと思います。

この記事の内容

  • 「福祉用具の貸与のみを行うケースについては報酬の引き下げ」について
  • これまでの分科会内容を振り返る
  • 診療報酬(医療)と介護報酬(介護)の比較
  • まとめ

記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年になります。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって8年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。

介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会について

以下に、介護保険制度における福祉用具貸与・販売種目のあり方検討会に関する資料を抜粋しています。

今回の議論の元になっている財政制度等審議会 (財務省)のスライドになります。

福祉用具のみのケアマネジメントが全体の6.1%を占めていて、ケアマネジメント費が約36万円かかっていることを説明しています。

上の図は、要支援についての試算になっています。要支援者は、約15万円のケアマネジメント費がかかっていると説明しています。

福祉用具をレンタルすることで、ケアマネジメント費がかかっているから、購入に切り替えて、ケアマネジメント費を抑えることを提案しています。

そういった、ケアマネジメント費を抑制する提案の中で、今回特に着目したいスライドになります。

福祉用具の貸与のみを行うケースについては、報酬の引き下げを行うなど実現すべき

と提案されました。

持続可能な制度を実施していくことももちろん大切なことです。

ですが、ケアマネジメントに関わる専門職からみれば、この点においてはどうしても間違っていることを指摘せざるを得ません。そのことに、ここでは触れていきたいと思います。

平成27年介護報酬改定の論議の振り返り

これまでの過去の厚生労働省分科会での介護報酬改定議論の中で、今回に通じる大切な意見があります。

それは、平成27年の介護報酬改定に至るまでの分科会に見られます。

平成27年は介護報酬はマイナス改定でしたし、全体的に厳しい改定がなされていました。今回のような福祉用具貸与のみのケアプランはだから、ケアマネジメント費の減額が提示されていました。

最終的には、委員の貴重な意見もあって、平成27年の介護報酬改定では、福祉用具貸与のみのケアマネジメント費は減額にはなりませんでした。

ここでは、その分科会の内(第115回社会保障審議会介護給付費分科会)2つの意見を取り上げたいと思います。

事務局からは以下のような論点対応策が提示されていました。

論点1 福祉用具貸与のみのケアプランについては、ケアマネジメント業務に係る業務負担が軽減されていることを踏まえ、基本報酬の評価を適正化してはどうか。

対応策 福祉用具貸与のみのケアプランについては、ケアマネジメント業務に係る業務負担が軽減されていることを踏まえ、基本報酬の評価を適正化する。

適正化するという文言は、減額を意味します。令和4年財務省から出された提案と同じ内容ですね。

この提案に対して、委員からは以下の意見が議事録に残されています。

(委員)業務負担が軽減されていることを根拠にして、この適正化を図ろうということでありますけれども、(中略)300時間に対して260時間と。これ、計算をざっと私してみたのですが、複数サービスを利用した場合に比べて、その時間数87%、ざっと言うとおよそ90%。これをもって、私は、この時間が非常に軽減されていると言えるほどなのかなということを率直に印象として思いましたので、評価を変えるほどの理由にはならないのではないかとまず1点思います。

この意見は今回の分科会でもそのまま通じます。

福祉用具のみであったとしても、ケアマネジメントのプロセスに何の変りもないのです。大変頷ける指摘ですね。

そしてもう一点あります。

(委員)それから、手間の問題がそれほど大きく変わらないにもかかわらず、むしろ単品サービスを複数サービス化するような方向に逆に誘導することになりかねないという懸念をむしろ持つわけでありまして、現状において、(中略)インフォーマルサービスその他で評価されていないということも考え合わせますと、現行のままで行くべきが妥当なところではないかと思います。

福祉用具のみがケアマネジメント費が低いのであれば、複数サービスを導入せよ!という経営主眼の歪みが間違いなく生まれます。

すでに、平成27年の時点でこのような論議がなされていたことを、私たちは知らなくてはならないと思います。令和6年の介護報酬改定に当たって、この論議が再燃する意味合いは、いったい何なんだろうと率直に思ってしまうわけです。

診療報酬と介護報酬との比較

介護保険制度についてばかりだと、自分の頭が固くなってしまいそうなので、次に医療を参考にして考えてみたいと思います。

大変簡単な医療保険(診療報酬)の流れを例示します。

  1. 患者が発熱して受診する(初診料
  2. 検査(採血・CT)がオーダーされる(検査料
  3. 肺炎の診断後、入院治療(入院料

受診すると診察料として、初診料がかかります。次に、医師の指示で、いろんな検査のオーダーが出ますので、それにともなう検査料があります。そして、肺炎治療を行うために入院料が算定されていきます。

そして、ここで考えたいのが、たとえ、1~3にかかわる医師診察の見立てが異なって、検査のオーダーが少なかったりする場合もあるわけです。

また、肺炎の所見が無くて外来で診察が終了して、入院とならなった場合ももちろんあるでしょう。

でも、そうだったとしても初診料等の減額はあり得ないのです。ここが大切なポイントです。

ケアマネジメントは、一連のプロセスが重要ですから、アセスメントの結果としてサービスが福祉用具のみだったというだけであって、アセスメントからのプロセスの労力は同一です。

にもかかわらず、数値として見えている部分(介護給付費)が結果的に福祉用具のみになっているから、労力の少ない楽な仕事と捉えられては、大変困ります。

この提案を、医療に置き換えてみてみましょう。先ほどの簡単な例示で考えてみたいと思います。

  1. 患者が発熱して受診する(初診料)
  2. 検査(採血・CT)がオーダーされる(検査料)
  3. 肺炎の所見なし、外来での再診

このように診察して、結果として肺炎所見はなかったので、入院はせず外来で終了したとします。

今回の財務省提案は、結果的に必要となったサービス量が少ないから、減額を提案しているので、それになぞらえて考えると・・・、

患者の肺炎所見がなかったことで、他の検査や入院指示が不要であり、医療資源の量が少ないことから、医師の労力が少なく、初診料等を減額しようと言っているようなものです。

診断から治療は一連のプロセスです。その投入された医療資源の量でそのプロセスを評価するものではありません。

ケアマネジメントにおけるアセスメント等も同様です。ケアマネジメントの根幹と言っていいでしょう。

まとめ

今回の「福祉用具の貸与のみを行うケースについては、報酬の引き下げを行うなど実現すべき」との提案については、さまざまな意見もあるとは思いますが、以下に意見をまとめたいと思います。

アセスメントからのケアマネジメントプロセスを経たからこそ、その結果(サービス)が出力されたのであって、そのプロセス自体を評価せず、結果だけに着目し、そしてプロセスを減額(評価しない)するという、今回の提案は間違っていると言わざるを得ません。

ケアマネジメントに関わっている専門職にとっては、その根幹を揺るがす提案であり、大変危機感を募らせます。

今後も、注視して分科会の内容を見ていきたいものです。

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