記事の信頼性
医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。
記事の内容
医療機関で活躍する「医療ソーシャルワーカー」はその仕事から“きつい”とか退院支援の関係から“追い出し屋”とかネガティブな意見もあるけど、地域共生社会・地域包括ケアの中で、とても大切な役割があります。あらためてここでは、従前からある『医療ソーシャルワーカーの業務指針』と照らし合わせて、これからの社会福祉士・精神保健福祉士の活躍について考えたいと思います。
医療ソーシャルワーカーが繋いできたバトン
私は今、地域福祉を中心にソーシャルワークを展開しているのだけれど、ネットワークとしては医療ソーシャルワークが長かったせいか、医療関係のネットワークも自分の中でとても大切にしている。
大切にしているというのは、何かとあらためて考えると「医療ソーシャルワーカーたち」のことになる。
地域福祉の立場から、医療ソーシャルワーカーたちと接していると『医療ソーシャルワークは、今後どこに行くのか』最近、そんな風な危機感に近い思いがぬぐえない。
近年、診療報酬でたくさんの加算が認められてきた。
20年前は考えられなかったわけで、「社会福祉士」という資格で診療報酬上での加算や施設基準は100年先もないと言われた時もあったし、いまのそれは、先代たちからつないできた大切なバトンだと思う。
診療報酬のことは以下の記事で取り上げているので参考になれば。
医療法人に所属する社会福祉士の現実
でも、どうしても医療機関に配属となった「社会福祉士」の業務はその診療報酬に紐づけられたものになるし、加算を取れるか取れないかとか、取るためにはどうしたら良いか、業務効率化などの考えが先になってしまう。
一方で、それはどうしても仕方のないことなわけで、医療法人は営利法人と変わらない法人税が課せられているし、ある程度の売り上げは常に職員には求められているからだ。
あまり、そういったことは医療の業界では表立って言われないけれど、中小病院といった民間の医療機関が多い日本の医療体制にあって、そういったことと常に隣り合わせなのが、医療機関に配属となっている社会福祉士たちの現実だと思う。
現に自分がそうだし、仲間たちもそう。
やっぱり、この「診療報酬」と「ソーシャルワーク」のギャップがあまりにもある気がしている。
これからのソーシャルワークの展開について
診療報酬は退院支援を中心としたケースワーク(ミクロ)への評価がほとんどだ。
回復期リハなどにはストラクチャーなども一部あるが、カンファレンス開催によってとか、ケアマネとの連携を行ったら加算などが中心になっている。
先代からのバトンをぜひ、今後はミクロから、メゾやマクロを含めての活動に広げていくことが重要だと思う。
特に、私たちが着目しなければいけないのは、従前からある医療ソーシャルワーカー業務指針にある。
医療ソーシャルワーカー業務指針
以下に、業務指針が示す「業務の範囲」を抜粋します。
ここで注目したいのは、一番下の(6)地域活動になります。
(1) 療養中の心理的・社会的問題の解決、調整援助
医療ソーシャルワーカー業務指針より
入院、入院外を問わず、生活と傷病の状況から生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、患者やその家族からの相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。
① 受診や入院、在宅医療に伴う不安等の問題の解決を援助し、心理的に支援すること。
② 患者が安心して療養できるよう、多様な社会資源の活用を念頭に置いて、療養中の家事、育児、教育就労等の問題の解決を援助すること。
③ 高齢者等の在宅療養環境を整備するため、在宅ケア諸サービス、介護保険給付等についての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連携の下に患者の生活と傷病の状況に応じたサービスの活用を援助すること。
④ 傷病や療養に伴って生じる家族関係の葛藤や家族内の暴力に対応し、その緩和を図るなど家族関係の調整を援助すること。
⑤ 患者同士や職員との人間関係の調整を援助すること。
⑥ 学校、職場、近隣等地域での人間関係の調整を援助すること。
⑦ がん、エイズ、難病等傷病の受容が困難な場合に、その問題の解決を援助すること。
⑧ 患者の死による家族の精神的苦痛の軽減・克服、生活の再設計を援助すること。
⑨ 療養中の患者や家族の心理的・社会的問題の解決援助のために患者会、家族会等を育成、支援すること。
(2) 退院援助
生活と傷病や障害の状況から退院・退所に伴い生ずる心理的・社会的問題の予防や早期の対応を行うため、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、これらの諸問題を予測し、退院・退所後の選択肢を説明し、相談に応じ、次のような解決、調整に必要な援助を行う。
① 地域における在宅ケア諸サービス等についての情報を整備し、関係機関、関係職種等との連携の下に、退院・退所する患者の生活及び療養の場の確保について話し合いを行うとともに、傷病や障害の状況に応じたサービスの利用の方向性を検討し、これに基づいた援助を行うこと。
② 介護保険制度の利用が予想される場合、制度の説明を行い、その利用の支援を行うこと。また、この場合、介護支援専門員等と連携を図り、患者、家族の了解を得た上で入院中に訪問調査を依頼するなど、退院準備について関係者に相談・協議すること。
③ 退院・退所後においても引き続き必要な医療を受け、地域の中で生活をすることができるよう、患者の多様なニーズを把握し、転院のための医療機関、退院・退所後の介護保険施設、社会福祉施設等利用可能な地域の社会資源の選定を援助すること。なお、その際には、患者の傷病・障害の状況に十分留意すること。
④ 転院、在宅医療等に伴う患者、家族の不安等の問題の解決を援助すること。
⑤ 住居の確保、傷病や障害に適した改修等住居問題の解決を援助すること。
(3) 社会復帰援助
退院・退所後において、社会復帰が円滑に進むように、社会福祉の専門的知識及び技術に基づき、次のような援助を行う。
① 患者の職場や学校と調整を行い、復職、復学を援助すること。
② 関係機関、関係職種との連携や訪問活動等により、社会復帰が円滑に進むように転院、退院・退所後の心理的・社会的問題の解決を援助すること。
(4) 受診・受療援助
入院、入院外を問わず、患者やその家族等に対する次のような受診、受療の援助を行う。
① 生活と傷病の状況に適切に対応した医療の受け方、病院・診療所の機能等の情報提供等を行うこと。
② 診断、治療を拒否するなど医師等の医療上の指導を受け入れない場合に、その理由となっている心理的・社会的問題について情報を収集し、問題の解決を援助すること。
③ 診断、治療内容に関する不安がある場合に、患者、家族の心理的・社会的状況を踏まえて、その理解を援助すること。
④ 心理的・社会的原因で症状の出る患者について情報を収集し、医師等へ提供するとともに、人間関係の調整、社会資源の活用等による問題の解決を援助すること。
⑤ 入退院・入退所の判定に関する委員会が設けられている場合には、これに参加し、経済的、心理的・社会的観点から必要な情報の提供を行うこと。
⑥ その他診療に参考となる情報を収集し、医師、看護師等へ提供すること。
⑦ 通所リハビリテーション等の支援、集団療法のためのアルコール依存症者の会等の育成、支援を行うこと。
(5) 経済的問題の解決、調整援助
入院、入院外を問わず、患者が医療費、生活費に困っている場合に、社会福祉、社会保険等の機関と連携を図りながら、福祉、保険等関係諸制度を活用できるように援助する。
(6) 地域活動
患者のニーズに合致したサービスが地域において提供されるよう、関係機関、関係職種等と連携し、地域の保健医療福祉システムづくりに次のような参画を行う。
① 他の保健医療機関、保健所、市町村等と連携して地域の患者会、家族会等を育成、支援すること。
② 他の保健医療機関、福祉関係機関等と連携し、保健・医療・福祉に係る地域のボランティアを育成、支援すること。
③ 地域ケア会議等を通じて保健医療の場から患者の在宅ケアを支援し、地域ケアシステムづくりへ参画するなど、地域におけるネットワークづくりに貢献すること。
④ 関係機関、関係職種等と連携し、高齢者、精神障害者等の在宅ケアや社会復帰について地域の理解を求め、普及を進めること。
この地域活動に示されるように、これからは、関係機関、関係職種等と連携し、地域の保健医療福祉システムづくりに次のような参画といった「地域活動」への加算が増えていってほしいと思う。
医療ソーシャルワーカーの活躍について
例えば、私の所属する市域では医療ソーシャルワークの従事者が中心となって、ネットワーク会議を予てから主催している。
これは退院支援に関わる要件をうまく活用して、マクロレベルで活動できるように、医師会や行政を巻き込んで、医療ソーシャルワーカーの活躍の場を開拓している。
この会議では、市域全体マクロレベルについて議論するのだが、それにはミクロレベルが礎になる。
個別のケースワークを通じて、市域の社会資源の限界点が具体に論じられるし、そこからマクロで取り組まなければならないことも明確になる。
例えば、行政や医師会との今後の連携やタイアップ方法なども見ることもできる。
これは、本当に素晴らしいことで、現在の診療報酬上の「社会福祉士」では終わらない医療ソーシャルワークの展開だと思っている。
どのようにメゾやマクロで医療ソーシャルワークを展開していく素地を創るか。
これは、今医療機関に配属となっている社会福祉士たちに課せられた一つの課題と思う。
お読みいただきありがとうございました。
めざし