記事の信頼性
医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。
介護支援専門員の法定研修(Vol.1129令和5年2月 22 日)が見直されましたね。
ここでは、その見直された研修内容について、ちょっとした考察を行ってみたいと思います。
私は地域包括支援センター(以下包括)に所属しているので、地域のケアマネジャー向けに法定外研修を企画・実施していますが、その中で、これからの介護支援専門員に求められていることをまとめてみたいと思います。
介護支援専門員の法定研修の見直し
一例として、実務研修の時間数が増えたもしくは新設になったところをピックアップして、以下にまとめてみました。
改正後 | 改正前 |
---|---|
科目【時間数】 | 科目【時間数】 |
人格の尊重および権利擁護並びに 介護支援専門員の倫理【3】 | 人格の尊重および権利擁護並びに 介護支援専門員の倫理【2】 |
ケアマネジメントの展開(1) 高齢者に多い疾患【2】 | 新設 |
ケアマネジメントの展開(7) 誤嚥性肺炎の予防のケアマネジメント【3】 | 新設 |
ケアマネジメントの展開(9) 地域包括共生社会の実現に向け 他法他制度の活用が必要な事例のケアマネジメント【3】 | 新設 |
高齢者の権利擁護・意思決定に対応する科目
上の表からは、高齢者の権利擁護・意思決定に対応する科目の時間数が、増加になっていますね。
「権利擁護」って聞くと、とても難しいことのような響きがあるわけですが、ケアマネジメントのプロセスは高齢者の人権を尊重するものだから、その実践は「権利擁護」そのものです。
法定外研修の中でも、同じようなことを繰り返してお伝えしています。
「権利擁護」は包括の仕事?弁護士や司法書士の仕事?そうではなく、ケアマネジャーであるみなさんの仕事もそうなんだ。
ただ、技術や知識だけでは権利擁護の実践は担保されないわけだし、その「価値」をしっかり学んで、価値・技術・知識で展開していくということが大切なのだと、現任者として自戒しています💦。
適切なケアマネジメント手法に関する内容を学ぶ科目
そしてかなり整理されたのが、疾患別の項目ですね。
まずは、高齢者に多い疾患に関する講義が盛り込まれました。知識として、留意点ですけれども基礎を学ぶことが今更ながら大切だとなったわけです。
介護支援専門員の元資格は介護福祉士、いわゆるケアワークに従事している福祉職が、近年多くなっています。
直近の第25回試験の合格者の内訳では、介護福祉士は6,096人で、全体の59.0%、約6割に上ります。(第25回介護支援専門員実務研修受講試験の実施状況についてより)
包括で実施している地域ケア会議において『医療との連携が課題』と、多職種連携会議などでいつも話題になって、往年の課題と言えます。
一つの考察としては、介護福祉士は医師の指示で動く職種ではないことが考えられます。
実務経験5年の中で、医師と日常的に業務を行っている機会が少ないことが理由として挙げられるのではないでしょうか。
看護師をはじめとした医師のもとで業務を行う職種は、日々の業務の中で医師の指示や連携することで、医療と接し、医療についての理解を深めていくことができます。
私は福祉職ではあるけれども、医療ソーシャルワーカーとして15年経験し、医療の中で、『医師も人である』とか、『医療というヒエラルキー』に身を投じて、その思考過程やシステムを一定程度、知る機会がありました。
業務上、医師の指示が不要という福祉職のアイデンティティは、強みでもあり、一方で弱みがあるのだと思います。
医療の学びを増やすことは、介護支援専門員の実態に手当てするような構成なんだと理解できました。
そして、後述する「ケアマネジメントの展開」の一部科目において、適切なケアマネジメント手法に関する内容を学ぶ科目となるよう科目名の変更がありました。
また、地域共生社会の実現に向け、科目内容を充実させるために科目名の変更・追加ということで、表題が地域包括ケアシステムの上位概念である地域共生社会を盛り込んでいます。
適切なケアマネジメント手法について
今回の法定研修の見直しについては、適切なケアマネジメント手法の策定が大きく影響しています。(「適切なケアマネジメント手法」の手引き参照)
この「適切なケアマネジメント手法」は、要介護高齢者本人と家族の生活の継続を支えるために、各職域で培われた知見に基づいて想定される支援を体系化し、その必要性や具体化を検討するためのアセスメントやモニタリングの項目を整理したものです。
適切なケアマネジメント手法より抜粋
2階建て構造について
適切なケアマネジメント手法は、基本的ケアと疾患別ケアの2階建ての構造になっている点が大きな特徴になっていますね。
「基本ケア」は、
- 本人の生活の継続を支援する基盤となる支援内容。
- 高齢者の機能と生理を踏まえたケア。
- 在宅のケアマネジメントやその前提となる多職種との情報共有において必要な視点、必要性が想定される支援内容。
「疾患別ケア」は、
- 疾患に特有な検討の視点あるいは可能性が想定される支援内容を整理。
- 疾患によっては、期別(退院後3ヵ月、退院後4ヵ月目以降など)の視点。
疾患別ケアの項目としては、
(1)脳血管疾患のある方のケア
(2)大腿骨頸部骨折のある方のケア
(3)心疾患のある方のケア
(4)認知症のある方のケア
(5)誤嚥性肺炎の予防のためのケア
の5つに大別されています。
新設された項目について
今回の新しい法定研修は、これを踏まえての見直しとなっていて、これまでなかった誤嚥性肺炎の項目が新設されているわけですね。
誤嚥性肺炎の項目が挙げられた理由としては、
- 対象となる高齢者の数が多い。
- 入院のリスクあるいは重症化した場合死亡のリスクが大きい。
- 医療的アプローチだけではなく、日常的な生活や健康管理、セルフケアの領域における対応も重要となる。
といった理由が、適切なケアマネジメント手法の策定に向けた調査研究事業資料からは、挙げられていました。
誤嚥性肺炎については、日本呼吸器学会においても、
生活上の注意
日本呼吸器学会より
喫煙で気道粘膜の浄化が抑制され、細菌が付着しやすくなるとされるため禁煙は重要です。また誤嚥防止のリハビリテーションも有効とされています。介護者は、患者の食事の際に十分に上体を起こし、ゆっくりと咀嚼・嚥下するよう指導することが大切です。肺炎球菌のワクチンも受けておくべきでしょう。
とあって、日常的な生活や健康管理が大切になるという指摘があります。
私もそうですけれども・・・、ケアマネジメントのアセスメントには、口腔内のアセスメントは抜けがちになります。
その傾向は、一般的にみられているようで、以下の項目が情報収集の実施が少なく、かつ、支援の見直しの必要性が大きい傾向があると調査報告に挙げられていました。
- かみ合わせや咀嚼及び義歯の状況等の継続的な把握と共有
- 口腔乾燥への支援
包括では、歯科医師との待合室懇談会等を開催していますが、デンタルよりも、どうしてもメディカルが優先されてしまう傾向があるという意見が多いです。
例えば・・・、
(主介護者)「退院後入れ歯が合わなくなってしまって・・・。でもかかっていた歯医者はちょっと遠くて・・・、またしばらくたってから、行くようにします。」
などといった利用者家族とのやり取りは訪問時に多くあります。
注意したいのは、ケアマネジャーといった専門職もそうですが、本人や家族においてもその傾向があるという点です。
口腔ケア等の啓発は、令和6年度から新たな推進が始まる予定になっています。(歯科口腔保健の推進に関する基本的事項より 歯科口腔保健の推進に関する専門委員会)
資料をみると、
すべての国民に歯科口腔保健の重要性が十分に理解され、歯科口腔保健のための行動が浸透しているとはいえない。
という口腔ケア等に対する厳しい意見も見られます。
こういった状況や様々取り組みを踏まえて、ケアマネジャーは、口腔ケア等に対しての意識をしっかりしていきたいものですね。
コミュニティソーシャルワークについて
最後に、主任介護支援専門員の研修内容についてです。
地域援助技術として、「コミュニティソーシャルワーク」と再び明記されていました。
平成28年に研修の見直しがある前には「コミュニティソーシャルワーク」という文言が科目にあったんですが・・・、科目の表題から一端なくなって、今回の見直しで復活しています。
私は「コミュニティソーシャルワーク」という技術、そして言葉をより普遍化させていく必要があると思っていて、大変喜ばしいことだと思いました。
社会福祉士の新カリキュラムについて
コミュニティソーシャルワークについて参考にしたいのが、社会福祉士です。
社会福祉士は、もうすでに新カリキュラムになって養成が始まっています。
令和7年度の卒業生から新カリキュラムで養成された社会福祉士になります。
地域共生社会をとても意識した養成課程になっていて、新設整理された科目「地域福祉と包括的支援体制」の中に、コミュニティソーシャルワークが中心的に位置付けられています。
「社会福祉士がソーシャルワーク」の資格なんだ!と言いながら、ソーシャルワークという言葉が科目にも出てこなかったこれまでの経過があります。
「コミュニティソーシャルワーク」についても旧カリキュラムの科目やシラバスにも出てこなかった…。
今回の新カリキュラムにて、ようやくソーシャルワークという文言が表題となって、前面に押し出された状況になりました。
これからの主任介護支援専門員に求められること
主任介護支援専門員は、地域共生社会を実現するためにソーシャルワーク機能を果たす専門職といえます。
すでに、全世代型社会保障構築会議報告書において、『適切な支援につなぐコーディネーターとしての役割を果たすソーシャルワーカーの存在が欠かせない。』と強い文言で触れられています。
ですので、「ソーシャルワーク機能」を実践して、普遍化させていくこと▶ケアマネジメントのように国民に浸透していくこと▶コミュニティソーシャルワークの実践で国民の生活を守れること
を実践していく必要があるのではないかと思います。
以下にコミュニティソーシャルワークの定義を掲載しておきます。
コミュニティソーシャルワークとは、地域に顕在的に、あるいは潜在的に存在する生活上のニーズを把握し、それら生活上の課題を抱えている人々に対して、ケアマネジメントを軸とするソーシャルワークの過程と、それらの個別援助を通じての地域自立生活を可能ならしめる生活環境の整備や社会資源の改善・開発、ソーシャル・サポート・ネットワークを形成するなどの地域社会において、ソーシャルワークを統合的に展開する支援活動である。(大橋謙策)
これを読めば、コミュニティソーシャルワークは、とても難しいものと感じてしまいますが端的に言えば、
- ケアマネジメントといった個別支援
- コミュニティワークといった地域福祉の基盤づくり地域づくりといった地域支援
これらを一体的に実施することが重要で、個別支援と地域支援は連続しているのだ。というものです。
現在では、報酬という面では何も手当がない分野ですが、主任介護支援専門員にとって、「コミュニティソーシャルワーク」は今後ますます重要になっていく分野なのだろうと思います。