記事の信頼性
医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。ブログ月間1万PV。
最近の総合相談の中に、有料老人ホームへ入居された利用者からの相談がある。強調したいのは、『入居している方からの相談』だ。
もちろん「いまは自宅でなんとか生活しているけど、今後施設に入居したい」といった【施設選定】の相談は以前からあるわけですが・・・。
今回は、入居している当事者からの問い合わせから、いろいろ「紹介料」について疑問に思うことも多くあったので、今回コラムとして記載することにしました。
「人材紹介会社の紹介料」への疑問
紹介料と言えば、財務省が5月11日に分科会を開いた財政制度分科会(令和5年5月11日開催)資料一覧中で、注目すべきポイントがある。
介護のニュースjointでも報じられて目にすることが増えた。内容は、いつもの財務省の厳しい指摘?かなと思ったわけだが、この案件については至極まっとうな内容と思った。
内容を抜粋すると、
介護職員の給与は公費(税金)と保険料を財源としており、本来は職員の処遇改善に充てられるべきもの。介護事業者向けの人材紹介会社については、本人への「就職お祝い金」の禁止など現行の規制の徹底に加え、手数料水準の設定など、一般の人材紹介よりも厳しい対応が必要。そもそも、ハローワークや都道府県等を介した公的人材紹介を強化すべき。
といったものだ。「介護職員の給与は公費と保険料を財源としている。」というこの指摘は非常に大切だと思う。
介護の人材不足は非常に深刻だ。私が勤める法人においても慢性的な人材不足が続いている。比較的都市部の傾向かもしれないけれど、施設(特養など)運営を継続していくために、居宅介護支援事業所を閉め、施設職員への異動を実施している法人も実際にみられるようになった。
特に、ケアマネジャーの人材不足が慢性化しているから、プランを組む人がいなくなってきている。なので、すぐには担当者が見つからないことを、利用者や家族には面談毎に説明するようになった。これは、昨年まではなかった新たな配慮だし、それだけ、在宅サービス利用待ちといった期間が以前と異なり、長くなってきているということを身に染みて感じている。
紹介業を通じて人を採用するとなると1人あたり、年収の30%が紹介業者に支払うわけだから、1件につき90万程度経費がかかること言うことになる。この点については、各メディアにおいても朝日新聞やjemmedで報道されている。
こういった高額な手数料の水準の徹底は、事業所運営を守る上でも、介護人材の処遇改善を図っていく上でも大変重要な措置であると思う。
そして、手数料という観点でもう一つ強く懸念がある。それは、冒頭に触れた有料老人ホームの紹介業の手数料の在り方についてだ。
「紹介業への紹介手数料」についての疑問
思っていたのと違う
第一報は、利用者Aさんからの連絡だった。相談内容としては、「病院に入院して、施設を希望したところ、病院のソーシャルワーカーから、紹介業者に関わってもらった。今月に施設入居したけど、思っていたのと全然違うので、退去したいと思っている」といった内容だった。
紹介業者の急増
筆者は比較的都市部で就労している。最近、施設紹介業者が本当に増えた。この原因は様々あるだろうけれど、有料施設の急増がその大きい理由の一つになるだろう。
以前(といっても10年以上前かな)の施設入所相談としては、特養や老健といった介護保険施設だったし、その後グループホームが整備されていった経過がある。よく似た形態としては軽費老人ホーム(ケアハウス)があるが、施設数としては限られていた。
いずれの施設も行政の計画に基づいて、整備される施設になるので、どんどんと右肩上がりに増え続ける代物ではない。
サービス付き高齢者住宅や有料老人ホームはどうか?
ちなみに大阪府を参考にしてみたいのだけれど、大阪府居住安定確保計画(令和3年12月)に基づいて、整備目標が定められていた。しかし「令和2年度末時点で達成」となり、その整備目標が満たされていることがわかる。
そして大事なポイントとしては「観測指標となった」という点だ。
観測指標とは、行政が市場の歪みや問題の発生を観測し、要因の分析や対応策の検討に資するものとして必要となる指標
国土交通省HP資料より抜粋
サービス付き高齢者向け住宅等は、介護保険施設等のように、行政が整備計画を立案していくものではなく、あくまで市場原理で増減するということだ。
そして、大阪府は特に突出してサービス付き高齢者向け住宅数が多い(サービス付き高齢者向け住宅情報提供システムHPより)
突然に急増した施設の把握が追い付いていないから、紹介業に依頼をするという構図が生まれて、最近の動向は強まっている。医療ソーシャルワーカーや地域包括支援センター向けに調査(高齢者向け住まい等の紹介の在り方に関する調査研究 報告書)でもそれは明らかになっている。
信じられない紹介業者と施設のやり取り
紹介業と施設のやり取りを聞くと、にわかに信じられないようなやり取りがされていた。
紹介業者「こういった利用者がいますが、施設さんは紹介料をいくら出せますか?」
施設管理者「うちは、○○万 までですね」
紹介業者「では、もう結構です」
こういったやり取りが、今まさに繰り広げられているということを、施設運営をする管理職の方から聞いた。
そして、紹介料は一時は落ち着いていた(参考月間ケアマネジメント)ようだが、最近はまた高騰してきているとのことで、1件100万という高額な紹介料が発生していると聞いた。
私にとっては、この内容は非常に衝撃的だったわけだが、同時に次のような疑問が出てきた。
・これでは【施設選定】が紹介料ありきになっているのではないか?
・利用者家族の意向がおざなりになっているのではないか?
「あなたはここしかない」といった制限のある情報提供
そう確信するのは、先ほどのAさんからの生の声だ。Aさんは「紹介業者からは、あなたはこの施設しか行くところは無いからと言われて入居しました」と言っていた。
市内を見ても、施設選択肢は他にもあるはずなのだが、そういった本人の意向を無視した、紹介料が優先され、偏った情報提供が行われている実態がある。
私は、紹介業自体を否定しているわけではない。実際、私も紹介業に頼ることは多々あって、圏域や市内の有料であれば、自分でつなぐことはできるわけだが、市外になるとたちまち情報はないので、紹介業に依頼することが多くある。
本人に寄り添った情報提供を行ってくれる紹介業者もいることを知っている一方で、ここで指摘したいのは、その紹介料に傾倒しすぎている実態があることだ。
公平中立について考える
ソーシャルワーカーやケアマネジャーは、サービス選定にあたって、マージンが発生することはない。利益誘導はしてはならない専門職としての倫理綱領があるし、公平中立は資格の各根拠法にも明記されていて、それを遵守することが義務付けられているからだ。
例えば、医師が患者を紹介することはしばしばあるが、紹介料というものの発生はない。あるのは紹介状(診療情報提供書料)に関わる費用だ。
私もこれまで、たくさんの方を施設へ紹介してきたが、もちろん紹介料は発生しない。
それは、医療介護の価格は公定価格で料金が定まっていることが挙げられる。専門職によるさまざまな行為は公定価格によって報酬単価が国によって定められている。
これはやはりどう考えても、1件100万という紹介料は異常な金額だと思う。
紹介業の取引の公正とは?
たとえば、宅地建物取引業を営む者については、免許制度と事業に対し必要な規制を法律で行っている。適正な運営や取引の公正を確保されているが、紹介業者にはこういった免許も不要だし、事業に対する必要な規制もないのが現状だ。
宅建業に従事する業種の方ともこの現状について話をすることがあって、以下のように経産省が回答していることを知った。
有料老人ホーム紹介業について宅地建物取引業に該当しないことを明確化した。その根拠に「自らが宅地等の売買及び交換の当事者となるものでないこと、あるいは売買、交換及び貸借の代理をするものでないこと」、「物件の説明は提携事業者が行うこと」、「入居条件の交渉及び調整を入居検討者と提携事業者間で行うこと」、「宅地等の売買、交換及び貸借の媒介をするものでないこと」などから判断した。同省は今回の告知により「新サービスの創出や拡大に繋がることを期待する」としている。引用:有老紹介事業「宅建業に該当せず」と経産省が明確化
仕事仲間のHさんから情報提供いただいた。ありがとうございます。2017年なので、随分と前に明確になっている。
「課題のまとめ」と「今後の提案」
これまでの課題をいったん整理すると、
- 介護保険事業所や宅建業のように事業指定がない。
- 担当者が利用者に対して、公平中立を担保する根拠法がない。
- 責任の所在が明確になる契約行為の規定がない。
といったところでしょうか。いろんな点がまだまだありそうですが、なので、紹介業者が「100万でどうですか?」などといった言い値が現に存在してしまうし、私たち援助職が大切にしている意思決定支援とは、随分とかけ離れたものになっている(そういった土壌がある)ことが大変問題です。
私たちソーシャルワーカーやケアマネジャーとしては、是非、紹介業をよく見ることをここでは提案します。
- 営業マンの雰囲気だけで判別して、簡単に依頼しない。
- 紹介料ありきの施設選定に傾倒していないか、きちんと見定めよう。
- 施設選定は家選びと一緒であり、そもそも時間がかかるものであるから、できる限り時間をかけて選定しよう。
これだけ、サ高住や有料施設が増加しているわけで、紹介業者とも力を合わせていく大切な仕事仲間であることは違いありません。
ただ、利用者さんの最善の利益を私たちは考えていかなければなりません。Aさんのようなミスマッチができる限り起こらないような施設選定を行っていかなければなりません。
そのための近道は、意思決定支援に基づいた原則を合言葉にして、取り組んでいくことです。
めざし