記事の信頼性

医療・高齢・地域福祉でソーシャルワーカーとして、対人援助職20年以上。現職は、地域福祉機関で管理者をしています。
社会福祉士養成校等で、社会福祉士等の養成に関わって約10年。
有資格は、社会福祉士、精神保健福祉士、介護支援専門員、公認心理師。
はじめに
独居で身寄りがなく、サービス拒否。高齢者を支える現場では、ケアマネジャーだけでなく近隣住民の方々も疲弊してしまうことがあります。
「なぜサービスを使ってくれないの?」という住民などの周囲の不満と、本人の頑なな思い。この溝を埋め、本人の「死生観」に寄り添った支援を考えた、ある個別地域ケア会議の実践事例をご紹介します。
1. 現場の葛藤:サービス拒否と、限界に近い近隣の協力
今回ご紹介するのは、要介護認定を受けている独居のAさんの事例です。
- 現状: 週1回のヘルパー利用のみ。
- 周囲の状況: 近隣住民が買い物や受診同行をボランティアで行っているが、負担が限界に達していた。
- 課題: ケアマネジャーがサービスを増やす提案しても、本人は拒否。住民側は「なぜもっとサービスを使わないのか」と不満がくすぶっている状態。
ここで立ちはだかるのが「個人情報の壁」です。ケアマネジャーは本人の詳細な状況を住民に話せず、住民側は事情が見えないため、不信感や負担感だけが募るという悪循環に陥っていました。
2. 突破口は「個別地域ケア会議」の開催
この状況を打破するために実施したのが、地域包括支援センターが主催する「個別地域ケア会議」でした。
「法定根拠」で情報の壁を越える
通常、守秘義務があるため住民に情報は開示できません。しかし、介護保険法に基づく「地域ケア会議」として開催することで、法的根拠を持って多職種だけでなく住民(民生委員・近隣協力者)を招集することが可能になります。
※参加者には事前に誓約書を提出していただき、プライバシー保護を徹底した上で対話の場を作る。
顔を合わせることで見えた「Aさんの素顔」
会議にケアマネジャー、近隣住民、民生委員が一堂に会したことで、新たな効果、新たなアセスメントにつながりました。
- 状況の共有: 現在どの程度のサービスが入っているのかを住民側が把握し、誤解が解けた。
- 新たな側面: 住民さんの口から、ケアマネジャーも知らなかった「日常生活でのAさんの強み、日ごろの生活」が語られた。
3. 「死生観」への気づきから、ACP(人生会議)へ
この会議で最も印象的だったのは、近隣住民の方々が語ったAさんの「死生観」についてのお話でした。
「Aさんは、最期までこうありたいと言っていた」「かつてこんな経験をしたから、今の生活を大切にしているんだと思う」
こうした言葉を通じ、単なる「サービス拒否」ではなく、本人のこれまでの生き方や価値観が見えてきたのです。
会議の結論として、全員でACP(アドバンス・ケア・プランニング:人生会議)を進めていくことが決まりました。
「誰がどの役割を担うか」を明確に分担したことで、住民側の「やらされている感」が「本人の意思を支える役割」へと昇華されました。
4. 意思決定支援を前に進めるために
病気や障害だけでなく、複雑な社会的背景を持つ方にとって、何に「生きづらさ」を感じているのかは周囲から見えにくいもの。
個別地域ケア会議を活用することで、以下のような効果が得られます。
- 周囲の意思疎通を促進する
- 孤立していた支援者(ケアマネや住民)をつなぎ直す
- 進みにくい「意思決定支援」をチームで前に進める
まとめ
地域を巻き込んだ公式な場(ケア会議)を設けることで、本人の人生に寄り添うACPへとつなげることができます。
地域の力を借りた多角的なアプローチが有効であると、改めて実感しています。
めざし
